青嵐吹くときに君は微笑む

□零の憂鬱と甘いチョコレート
1ページ/1ページ

 二月十四日。世間一般では女子が好きな男子にチョコレートを送るという恋愛イベントの一つだ。
 クラスの悪友共が「今年もキットカット買った?」などと悲しい会話を繰り広げている中、俺は憂鬱な気分で過ごしていた。

「いいよな、零は。毎年チョコ貰えてさ」
「そんな貰ったって嬉しくないって言うか、正直迷惑」
「うわっ、零言うねー。俺も一回でいいからそんなこと言ってみたいわ」
「勝手に言ってろ」

 毎年違う人に告白され、毎年振る。
 知らない人に告白されたって嬉しくないし、振った俺だって少しは傷つくんだ。
 なんでこんなイベントが日本にはあるのだろう。

「あの……相原くんいますか?」
 ほら来た。名前も知らないような子が。
「俺、いないことにしておいて」
 机の影に身をひそめながら悪友に伝える。

「ゴメン、今いないみたいだわ。代わりに俺が貰ってやろうか?」
 それだからお前は毎年貰えないんだろ。
 結局俺に放課後体育館裏に来るようにと伝言を頼まれたらしい。
 面倒くさいが一応行くことにした。


 断わりはしたものの結局チョコと手紙を押しつけられた。下駄箱に入っていた分を合わせて本日三つ目だ。

 学校からの帰り道、悪友共に先に帰られたため今日は一人だ。
 ふらっと近所の商店街に立ち寄った。店の外にワゴンで売られている箱入りのチョコ。
 渚先輩が好きそうだと思い一つ手に取ってみる。赤みがかった茶色に金色の文字で柄の入っている包み紙の小さな箱に、小粒なチョコレートが六つ入っている。六粒しか入っていないのに少々高めだ。
 逆チョコとか言われているが、普段のお礼という意味だと自己解釈し買った。

 渚先輩に電話しようとズボンのポケットの携帯に触れようとした時、着信音が鳴った。
 表示をみると渚先輩だった。ちょうどよかったと思い電話に出る。

「もしもし零くん?」
「はい、お久しぶりです」
「そうだね。零くん今から会える?」
「大丈夫です。ちょうど俺も渚先輩に渡すものがあるので」
「そうなんだ。…………じゃあまた後で」

 近くの公園で会う約束をして電話を切った。渚先輩に会えると思うと憂鬱だった気分が晴れていった。

 公園につくとすでに渚先輩はベンチに座って待っていた。なにやら赤い紙袋を膝に抱えている。
 俺を見つけた先輩の顔がパッと明るくなる。それにつられて俺も笑顔になる。
 立ち上がって俺に駆け寄ってくる渚先輩は小動物のような可愛さがある。

「零くん、コレ受け取ってくれる?」
 赤く頬を染めた先輩が紙袋を差し出してきた。中身を見ると、同じく赤色の包み紙に金色のリボンでラッピングされた箱と手紙が入っていた。
「先輩、これって」
「うん。バレンタインだから作ってみたの。零くんチョコ平気だったよね?」
「はい、ありがとうございます。」
 心があったかくて、体中に広がっていくような、そんな感覚を覚えた。

「渚先輩、コレ、さっき買ったものですがどうぞ。」
「これって高くなかった?僕これ買えなかったんだ。ありがとう、零くん。」
 柔らかい笑顔に俺の心も溶かされていった。
 バレンタインも悪くない。そう思えた1日だった。


零の憂鬱と甘いチョコレート 終

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ