青嵐吹くときに君は微笑む

□春が来る前に
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「いーち、にー、いちに、ファイト」
「ふぁいと」
 先頭を走る一年生代表のはきはきとした掛け声に続いて、バスケ部一年生プラス俺達二年生の補欠組はかったるさを隠して声を出す。
 重い足を上げながら今日も俺は運動場でランニングをしていた。
 
 もうすぐ三年生だと言うのに俺は全くチームのメンバーに入れない。いわゆる補欠の補欠だ。
 渚先輩のいない今、俺がこの部に居る目的は無い気がしないでもないが、辞める理由もないしとやかく言われるのも面倒くさいので毎日しっかりと部活に参加している。
 
 最近は寒さも緩み、柔らかな春の風が流れる。とても気持ちのいい天気だ。
 こういう日こそ渚先輩と出かけたい気分だ。
 桜が咲いたらお花見とかして……渚先輩団子好きそうだな。
 渚先輩と出かける妄想を若干ニヤケながらしていると、気付いたらランニングを終えていた。
 ありがとう、俺の妄想力。

 靴を履き替え体育館に入ると、何やら人だかり……しかもバスケ部とどこぞの女子ばかり……が出来ていた。
 一応覗きに行くと、俺の思考が一瞬止まった。
「渚先輩!? なんでここに居るんですか?」
「あっ、零くん久しぶり。今日はたまたま暇だったから部活に遊びに来たんだ」
「そうなんですか」
 渚先輩の笑顔にキュンとしてしまった俺は、顔を他の人に見られぬようにその場から急ぎ足で立ち去った。

 壁にもたれかかるように腰をおろし、渚先輩の方を眺める。
 久しぶりの再会に喜ぶ他の部員と思い出話に花を咲かせ、笑っている。
 他の部のマネージャーに握手を求められ、快く応じる渚先輩。
 部活に来てくれて久しぶりに会えて嬉しい筈なのに、どうしてだろう、鳩尾の辺りがギュッと痛い。

 ぼんやりしていると、急に体育館の反対側で歓声が上がった。
 見ると人だかりの中で、美しい天使が舞っていた。

 ランニングの疲れなんか忘れて俺は走った。
 懐かしいあの光景。あのざわめきを求めて。

 あのころと変わらない素早い動きで人を抜いてゆく。
 ステップを踏むたびに汗がきらりと光った。
 そして高く跳び上がるとボールを確実にゴールに収めた。

 鳥肌が立った。そして改めて渚先輩のことを……

 シュートを決めた渚先輩は周りの人々と順番にハイタッチしていた。
 そして渚先輩は最後に俺のところに来てハイタッチをすると「実は今日ね、零くんをお誘いに来たんだ」と耳元で言われ、俺は口元を緩めた。

 今日もいい一日になりそうだ。


春が来る前に  終

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