キミに逢いたい

□第1章 世界に殺された者
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加賀陸樹(かが むつき)は客人の気配に目を覚ました。

月明かりだけが照らす部屋の中で、ドアの前に少女、いや少年が立っている。
フリルをたっぷりとあしらった白いドレスを身に纏っている。しかし身体は男の子である。

青白い肌に引かれた赤いルージュが妖艶に光っている。
そしてその風貌には不釣り合いな、大きな白いヘッドフォンをしっかりと耳にはめている。

陸樹は細い体を起こすと少年をベッドまで招いた。

少年の髪から血の臭いがする。
少年を咎めているのではない。巫女様の定めた理がしたことだ。

巫女様が予知した未来は絶対。この少年にも、陸樹にも覆すことはできない。そう決まっているのだ。

少年が着ていたドレスを脱がすと、身体中の傷に唇を這わせた。

1度這わせた肌には一筋の傷もなくなる。陸樹の持っている魔法の1つだ。
傷から滴る血液を味わう度に、少年がどのような戦いをしてきたのか鮮明に脳裏に浮かんだ。


陸樹は悲しくなった。

「何故避けなかった」

「…………」

「なんでわざと傷付く」



「陸樹、僕を抱いてよ」


少年は悲しい笑顔を浮かべた。
ああ、まだ傷付き足りないのか。


「……わかった」


陸樹は少年の肩を掴み、ゆっくりとベッドに埋めた。
陸樹にはもう少年が傷付くことが耐えられない。

唇を合わる。歯列をなぞる。舌を絡ませる。
ゆっくりとした動作で少年を癒す。
静かな夜のなかで、厭らしい水音が響く。

陸樹は少年の記憶を手繰り寄せる。


少年――羽鳥拓磨の記憶を。
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