言葉の欠片はあなたと共に

□第3章 熱帯夜とバイク
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鼓膜が痛くなるようなエンジン音。でも慣れればどうってことなかった。
むしろ世の中の嫌な音すべてがかき消されるようで心の中が軽くなるようだった。
疾走感が体に染みついた常識や過去を拭い去ってくれる。
ただ、ヒロのやや細い背中が暖かかったことだけ覚えている。

少し離れた高台にある公園まで来ると一度バイクを止めた。
「どうだ? 気に行ったか?」
「ああ、すごくすっきりする。ありがとう、ヒロ」
「いいって、また連れてきてやるよ」
照れくさそうに笑うヒロはどこか寂しげに思えた。

「要も免許とってみるか? 俺の働いてるバイク屋で紹介するけど」
「とりたい。よろしくお願いします」
ヒロの目を見つめると顔を真っ赤にされた。
「そ、その目はダメだ。何というか、色っぽ過ぎる」
「俺男だけど。変なヒロ」
「とにかく他の奴にその目を向けるな。危ない奴もいるから」
「はいはい」
また休日の昼間に会う約束をして、もと居たコンビニまで送ってもらった。
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