言葉の欠片はあなたと共に

□第4章 消えゆく思い
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「どうかした?元気ないぞ」
「あのね……その……ごめん、かな兄」
ごめん……?
「俺……かな兄を裏切った」
裏切り……?
「本当にごめんなさい」
なんだよ、なにがごめんだよ。訳が分からない。
「俺、好きな人が出来たんだ」
「それは、女か?」
「うん……同じ塾の子」
「そっか……」
 
相手が女なら仕方ない。そう思いたかった。仁のためなら、と諦めたかった。
「明日、会いに行ってもいいか?直接話が聞きたい」
「分かった」
手短に明日の約束を済ませ、電話を切った。

「はははっ……なんだよ、それ」
涙が溢れる。もう笑うしかない。
悔しいのか悲しいのか……いや、もう何も感じない。

夏の蝉の声だけが響いていた。
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