青嵐吹くときに君は微笑む

□第1章 きっとどこかで出会ったような
2ページ/25ページ

「だってお兄ちゃん暇でしょ。彼女居たことないし」
「うっ」

さすがに痛いところを突かれた。
確かに零に今まで彼女が居たことは一度もない。

以前に何度か告白されたことはあるが、ただ一方的に気持ちを押しつけられているようで気持ち悪かった。
誰かを好きになるということがよく分からない。
胸がときめく感じも、目を奪われたのも、あの時だけだった。


――でもあれは、きっと恋なんかじゃない。だって相手は……


「ねっ、だから行ってきて。グッズは友達に頼んだからコンサートだけでいいの。ナンパついでだと思ってさ」
雫の少し気味の悪いぐらいの甘えた声でふと現実に引き戻された。

「ナ、ナンパなんかしねぇよ。もう分かった。行ってきてやるよ」
「やったぁ、ありがとお兄ちゃん。後でちゃんと感想聞くからね」

語尾に黒いハートが見えた気がするが気にしない。
雫からチケットと必須アイテムらしいペンライトを受け取り、ダウンジャケットを羽織り、ポケットに財布とケータイを突っ込んで家を出た。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ