青嵐吹くときに君は微笑む

□第3章 職人の街と渚のお仕事
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 渚先輩は少し大き目のトートバックを持って俺と部屋を出た。しかし、重そうに見えたことと、俺がカッコつけたかったからという理由で俺がカバンを持つことにした。大きさの割にはそんなに重くは無い。渚先輩が小さいからカバンが大きく見えたなんてもし言ったら、この先は考えたくもない。
 渚先輩の住んでいるマンションから徒歩数分のバス停からバスに乗り込む。比較的混んでいたので二人並んで立っていた。
 バスの窓から見える大きな入道雲が夏らしさを感じさせてくれる。鮮やかな青の空が俺に語りかけてくる。あなたは今、幸せですか、と。俺はきっと胸を張って答えられるだろう。

 景色が見慣れないものになっていくにつれ、新しいものに触れるというほんの少しの不安と緊張を感じた。繋いでいる手に自然と力が入る。
「零くん大丈夫?」
「あ、すみません、大丈夫です」
 手の力をふっと抜いた。少し恥ずかしい。
「あの、渚先輩。その、マスターってどんな人なんですか?」
「妹思いの優しい人だよ。しっかりしていてお客様からも人気だし」
 渚の笑顔を見ていると安心する。いつしか俺の感じていた緊張は解れていた。

 バスを降りて辺りを見渡すと、どこか異国のような街並みをしている。渚先輩がここは魔法の街なんだよ、と笑った。
 石畳の道路に細い路地、彫刻の施された街灯。森の中にいるような穏やかな空気。どこを見ても絵になる芸術的な街だ。
 渚についてしばらく歩くと、バイト先のカフェに着いた。古い木製のドアを開けると、中から心地よいピアノの旋律が聞こえてきた。
「いらっしゃいま――ああ酒本君、今日は急に呼んですまないね」
 蒼い髪の青年が挨拶をする。一瞬目を疑ったが、確かに夜空のように深い青色の髪だ。他には誰もいない。
「いいえマスター、大丈夫ですよ。今日はお客さんを連れてきてしまったけどよかったですか?」
「もちろん、彼は酒本君の…恋人かな?」
 渚先輩は頬を染めて俯いた。なぜ俺と先輩の関係が分かったのか、とても不思議だった。
「じゃあ僕、着替えてくるね」
 そう言い残して渚は逃げるように店の奥に入っていった。
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