短編集

□きみへ
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 学校からの帰り道、隣を歩いているきみは悲しい顔をしていた。
 聞きたいけれど、聞きたくない。
 聞いたって自分を傷つけてしまうだけだから。

「なあ、俺……彼女と別れたんだ」
「そう……なんだ」
 唐突にきみは話し始めた。

 俺には辛すぎる現実が、きみの言葉によって姿を表した。

 きみがどれだけ彼女のことが好きだったのか、俺は知っている。
 それなのに、喜んでいる自分が居る事が悔しい。
 きみの幸せがいつだって俺の幸せのはずなのに。

 ふと俺の袖を掴んだきみは、いまにも泣きだしそうな顔をしている。
 けれどきみを抱きしめる事を俺はしてはいけない。
 だからそのかわり、俺は笑った。

「元気出せよ。またいいことあるさ。悲しい顔してると幸せが逃げるぞ?」
「うん、ありがと」
 無理して笑うきみのぎこちない笑顔が、たまらなく愛おしく思えた。

 今日だけはきみが家に入るまで見送った。
 玄関から手を振るきみにつられて、俺も小さく手を振った。

「また明日、おやすみ」
――きみのことが、大好きだ。
 閉まったドアの前でそっと呟いて家路に着いた。

 オレンジ色の空が、俺の影を伸ばす。
 苦しくて、寂しくて、幸せで……
 ギュッと制服の裾を掴み、歯を食いしばる。

 いつかこの想いは届くのだろうか。
 いつこの声が聞こえるのだろうか。

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