短編集

□もしも
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「ボク、好きな子がいるんだけど……男なんだ」

 嘘だろ?
 君の一言に俺の心臓が跳ねる。
「キミがその……男同士で付き合ってるって聞いたから」
 確かに俺には彼氏がいる。互いに好き合ってるのも事実だ。
「誰にも相談出来なくて……でもこんな近くに仲間がいて嬉しいよ」
 そうだよな。君がもし男のことを好きならって、どれだけ願っただろう。

―――なぜなら、君は俺の初恋の人だから。


 あの頃は、まだ名前も知らない感情に溺れていた。
 一緒に居たいと望み、君の幸せを願った。
 君が笑えば俺も笑い、君が悲しめば俺も涙を流した。

 しかし時間は止まらない。
 春には別々の学校へ進学し、あまり連絡をとることも無くなった。

 そして、初めての経験。
 クラスメートにいきなり告白された。
 しかも同性に。
 今までの関係とは別段変わらなかったが、このときはっきりと俺の性を自覚した。
 告白してきたアイツへの想いはだんだん大きくなり、触れたい、俺のものにしたい、1つになりたい、と欲望が膨らんでいった。
 好きで、愛しくて、いっそのこと壊してしまいたい。

 だけど君のことを忘れはしなかった。
 あのとき君に恋していたんだと、知ることが出来たから。

―――もしも、もしもあの時、君への想いに気付いていたら

「今までずっと苦しくて、ボクは可笑しいんだって思ってて、何回も死のうと思ったよ。でも、キミが居てくれて良かった。ありがとう」
 この世界は理不尽で残酷すぎる。
 頭が回らなくて、訳もなく泣きそうだ。

『もしも』と願ったことが叶うのには少し遅すぎた。

もしもあの時、俺が告白されなかったら。
もしも君が別の人に恋をしていなかったら。
もしも今、俺が君のことが好きだと言ったら。

―――――俺の生きる世界はどう変わるのだろう。

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