終焉の夜明けへ
□Who Are You...?
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お前を産まなければ。
私は母にそう言われ続けた。
お母さんと呼ぶことを拒否され続けた。
「お母さんーー」
「お前を産んだ覚えはねぇんだよ。名前で呼べって言ってんだろ
⁉」
毎日拷問のような虐待。
時には包丁で背中を刺されもした。
なんでなんだろう
なんで私は生まれてきた事すら拒絶されるのだろう
その謎が解け始めたのは彼、そう、メフィスト・フェレスと出会ってからだったーーー
私の16歳の誕生日も過ぎた頃、母がなんの前触れもなく死んだ。
突然、学園から校内放送で呼び出され、その事実を告げられたのだ。
私は今、母に強制的に入れられた正十字学園の特進科に在籍している。
母が亡くなっているのが発見されたと聞き、慌てて寮から駆けつけて来たのだ。
着くと祓魔師たちが私の元へ駆け寄って来た。
「あなたは被害者の娘さんでいらっしゃいますか?」
「はい…母は一体…何故警察ではなくて祓魔師の方々が?」
「悪魔に殺された可能性が高いのです。もしくは悪魔に乗っ取られたか…恐らく、悪魔に耐えきれず体を破壊されたのでしょう」
「嘘…母が悪魔に…」
悪魔と聞いて理解出来たのは、昔祓魔師になりたかった時期があって、それなりにきちんと勉強したからである。
しかし私は、あまりに非現実的な回答に混乱してしまう。
「ここ数日、お母様に異変はありませんでしたか?そうですね…例えば、乱暴な言葉を使った電話を掛けてくるとか、脅迫文のような手紙が届いたりとか」
全くもって嬉しくない事実だが、毎日のように虐待に遭っていた私には、それが特別な事に思えなかった。日常茶飯事だから…。
「いえ…特には」
「そうですか…もし悪魔落ちしていたのなら、狂気的な言動が見られる場合が多いのですが」
「でも‼あの、なんで…どうして母が悪魔なんかに乗っ取らーー」
「モエさん」
「え?」
混乱し、矢継ぎ早に質問しようとしかけた私に声が掛かる。
そこには我が学園の理事長が立っていた。
「初めまして☆私はヨハン・ファウスト5世ーーあぁ、ここには祓魔師の方々しかいませんから、本名でいいですね、メフィスト・フェレスと申します。ご存知ですかな?」
「え…あ、はい‼高校の理事長さ…ん?でも本名ってーー」
「まぁまぁ☆貴女もこの状況で訊きたい事が色々あると思いますが…私がきちんとご説明しますから、私の部屋までご足労いただけますかな?」
「でも…」
私はチラリと現場を見やる。
「こちらのことは彼らに任せれば大丈夫ですよ。さぁ行きましょうか」
「…はい」
なんで理事長がーー
どうして母が悪魔にーー
考えれば考えるだけ、頭が混乱し、パニックになっていった。
ギュッ
突然、理事長が私の肩に腕を回してくる。
「ちょっと…理事ちょーー」
「貴女に逃げられては、一大事なのでね。嫌かもしれませんが我慢してください」
「一大事?一体なにがですか?」
そう尋ね、ふと理事長の顔を見上げる。その顔は先ほどの飄々としたものから真剣なものへと変わっていた。
「実は前々から貴女の事を調べさせていただいていました。そして先日、もしそれが本当ならとんでもない事実が浮かび上がりましてね」
「私の事を調べていた…?何故です」
「貴女はお母様から酷い仕打ちを受けていた。それこそ拷問のようなね。『一体何故自分を拒否するのか』と思ったことはありませんか?その答えが見つかったと同時に、貴女の生誕についても実に興味深い事実が分かったんですよ」
なんでこの人が、虐待の事をしっているんだろう。
次々に疑問が生まれてくる。
「ククク…ずいぶんと動揺してらっしゃいますね。まぁ私の部屋に着いたらすべてお話ししますから。それまでの辛抱ですよ。あぁ、こちらは私の車です。お乗りください☆」
もやもやした気持ちを必死に振り切り、理事長に肩を抱かれながら車に乗り込む。
「あ、私の事はメフィストとお呼びくださって結構☆ですが一般の方の前では先ほどのように、理事長かファウストとお呼びくださいね」
「はぁ…じゃあメフィストさん?」
「はい。それでよろしい☆」
私が生まれてきた事すら拒絶された理由。
お母さんと呼ぶことすら禁じられた理由。
これから彼からその事実が告げられるのだ。
体がとてつもなく重くなった気がした。
そしてなにより、自分の母親が亡くなったのに悲しみが訪れていない自分自身に落胆する。
私の生まれた理由はーー
Who Are You...?(今は亡き、母に贈る世界)