いつも月夜に

□この足で
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欲しいものを書き出しておこうと思ったけど、書き出すためのペンや紙がなかった。買い物袋もないし、なんならデデンとかいう通貨をしまうための財布すらない。

(櫛と、歯ブラシ、歯磨き粉。タオルはサイズ違いで何枚か欲しいかも)

頼まれていた城の廊下の掃除を終えて、これから村まで買い物に行く。
プププランドは、今日も快晴だ。








陛下に連れ回されてちゃんと見て回ったことがないから、フームに村の案内をしてもらうことになった。持ち物といえばワドルドゥ隊長から支給されたお給料を入れた袋くらいだけど、足取り軽く、フームとの約束の場所、村の入り口を目指す。

(楽しみだなあ)

最初はおっかなびっくり歩いていた城の廊下にもだいぶ慣れた。

(シャンプーの類はあらかじめ置いてあったけど年季入ってたし、余裕があったら買おうかな)

主に洗面台の周りのものを思い浮かべてひとり指を折る。買い物はこのなにを買おうか考えている時間が一番わくわくすると思う。今の私の場合は特に。

(あとなにか必要なもの……ティッシュとか?暇潰し用に本とかあるといいなあ。携帯は普及してないけど、一応テレビはあるとかって。まあ買うわけにはいかないけど……)

そうしてまた一本指を折りながら角を曲がったときだった。反対側からやってきたひとと危うくぶつかりそうになる。お互い寸前で立ち止まることができたので事なきを得た。でも、

(びっ……くりした!!)

驚きすぎて声も出なかった。突然だったことに加えて、なんと相手が、鎧だったからだ。
ワドルディの一頭身が大半を占めるデデデ城で、珍しく頭身があるそのひと。剣を腰に携え、青緑色の鎧がかちゃりと重々しく音を立てる。目は合っているはずだけれど、顔がうかがえないために圧を感じる。城の兵士はてっきりワドルディしかいないものだと思っていた。
「す、すみません」はっと我に返って今更ながら会釈した。

「こちらこそ不注意を。お出かけですか」
「えっ、えっと、はい」
「この先のバルコニーで陛下が日光浴をされています。見つかると厄介でしょう」

ぶつかりそうになった相手の後ろから、金属同士がぶつかる音を立ててもうひとり現れた。黄緑色の鎧。彼も同じく剣を携えている。

「少し戻ったところにある階段を下りて右へ。遠回りにはなりますが、見つかることはないかと」
「あ、ありがとうございます……」

初対面のはずだけど、きっと私のようなよそ者は目立つだろうから知られていても不思議じゃない……って、思っておこう。
まだどきどきと緊張している胸を隠すようにして、言われた通り、足早に来た道を戻った。角を曲がる際、なんとなく振り返った先にはもう、誰もいなかった。
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