TMNT

□「またいつか」のメモを添えて
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※幼児主




「あーかめさんだ」

ぱしゃり。そんな音が、夜空に響いた。










お決まりである、フット団との戦闘のあと。屋根を伝って下水道に帰る途中で窓から顔を出すまだ幼い女の子に写真を撮られた。小さな手に似つかわしくない、大きくてごついそのカメラは俗に言う一眼レフ。

「あー、レオ」
「わかってる。なんとかしなきゃな」
「かーわいい!ねえ君、名前は?」
「あいつもな」

近づくミケランジェロに、女の子はなんとも嬉しそうに「ナマエ」と名乗った。亀のミュータントであるタートルズに怯える様子もない。しかし、エイプリルの時のように写真削除を試みると、彼女はその小さな胸に大きなカメラを抱いていやいやと拒否した。

「おい、そのカメラをよこせ」
「いや」
「よこせって!」
「いや!」
「ちょっとラファエロ、彼女はまだ子供なんだからもっと優しく……」

ドナテロが注意するも少し遅かった。ナマエの瞳いっぱいに涙が浮かんできてしまった。

「あー。ナマエちゃん泣かした」
「ちっ」

ラファエロはお手上げ状態だし、ドナテロは慌てるだけだし、ミケランジェロが変顔を繰り出すも玉砕してるしで、レオナルドが痺れを切らす。

「あーあー!わかった。俺がなんとかするからお前らは先に帰れ」
「えー、なんとかって?」
「任せた。これ以上ガキの相手はしたくねぇ」
「あ、ちょっとラファ!」
「ほら、ドナもマイキーも早く行け」
「わかった」
「頼んだよレオ!ハシ行きは勘弁なんだから!」

兄弟たちを見送り、レオナルドは嗚咽を漏らす小さな女の子と向き合った。なんとかするとは言ったが、これは多分、いや絶対、自分には向いていないジャンルだ。
レオナルドはとりあえず窓の側でしゃがんで目線を合わせた。

「ごめんなナマエ、あいつはちょっと短気なやつなんだ。許してくれ」
「……いいよ…ぐすっ」
「ありがとう」

ピンク色のパジャマの裾で彼女の頬を拭ってやると、ようやく涙が止まった。

「ねえ、かめさんはなんでこんなおそい時間にお外にいたの?」
「悪い奴らと戦っていたんだ。もう俺たちがやっつけたから大丈夫だよ」
「じゃあ、かめさんたちはヒーローなのね」
「ヒーローじゃない、忍者だ」
「ニンジャ?」
「そう、忍者。忍者は影で生きる。だから写真を撮られるとその、困るんだ」
「そう……だから赤いかめさんはおこったのね」

胸に抱いたカメラを見つめていたナマエはややあって「わかったわ」と呟いた。
小さな手を器用に動かしてカメラを操作する。レオナルドがその手元を覗き込むと、液晶には自分たちの姿がばっちりと捉えられていた。

「写真撮るの上手いんだな」
「うん。これお父さんのなんだけどね、ないしょで持ってきて、たまにこうしてお空の写真とってるの。……はい、これでオッケーよ」
「ありがとう、ナマエ。じゃあ俺は」

帰るよという言葉を発する前に、ナマエがレオナルドの顔の横に垂れるマスクの端を掴んだ。しゃがんでいたところを立ち上がろうとした瞬間だったので窓の縁に額をぶつけそうになった。

「もう、会えない?」

震えた声。無理な体勢をなんとか正してナマエを見ると彼女の瞳にはせっかく止まっていた涙がまた浮かび始めていた。

「もうかめさんたちを写真にとったりしないから」
「ナマエ……」
「ひみつにするわ。だれにも言わない」
「ん……」
「私、こうしておしゃべりするお友達がほしかったの。せきがひどくなっちゃうから、お外に行けなくて」
「………」
「どうしても、だめ?」

何とも言えずに黙り込んだレオナルド。ナマエは涙を零したが、ぐっと自分でそれを拭い、部屋の奥に駆けて行った。すぐにクッキーの缶を抱えて戻ってくると床に座り込んで蓋を開ける。そこにはクッキーではなく、色とりどりの飴玉が入っていた。

「ナマエ?」

ナマエは掴みきれないほどその飴玉を取り出して、窓枠にいるレオナルドに差し出してくる。

「これ、かめさんにあげる」
「受け取れないよ。君のだ」
「私のだから、私の自由。お母さんが作ったあめなの。おいしいから食べて」

ゆるゆると差し出された三本指の手を、ナマエはためらいもなく掴んでその手に握らせる。あまりに大量だったので、レオナルドの手から溢れた飴玉が、壁を伝って地面へと落ちていった。
彼女の手は小さすぎる。レオナルドの手に残った飴は一つだけだった。彼女は気づかなかったのかもしれない。泣きながら笑顔を浮かべるという、器用なことをしていたから。

「わがまま言ってごめんなさい。でも私、かめさんたちのことわすれないわ」
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