TMNT

□もうとっくに
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「付き合うよ!」
「……え?」

時間として、あと少しで次の日になりそうだって頃。突然ナマエが楽しそうな声でそう言ってきた。振り返れば満面の笑み。その満面の笑みの彼女の手にはお菓子とマグカップ。

「付き合うってなにが?」
「ドナ、徹夜するんでしょ?」
「徹夜?いや、僕は徹夜するって決めて作業してるわけじゃ」
「するんだよね」
「まだわからな」
「するんだよね」
「……する、かも」
「オッケー!付き合ってあげる!」

ナマエが下水道にある僕らの家に泊まりに来た。ミケランジェロは飛び上がって喜んで「今日は夜更かしするんだ!絶対!」とか言っておきながら二十二時でダウンした。先生が特別に夜更かしの許可を出してくれたっていうのにもったいない。
ミケランジェロがダウンしたのを皮切りに、各々寝る準備が始まった。レオナルドとラファエロがミケランジェロを引きずってベッドに運び、おやすみの挨拶で今日は終了。僕は中途半端だった作業を終わらせてしまおうとデスクについたから、てっきりナマエも寝る準備を済ませて急拵えのベッドで眠りについたんだと思っていた。

「はい、ドナ」
「ココア?うわあ、ありがとう。ちょうど糖分が欲しかったんだ」

ナマエは僕の隣に椅子を引っ張ってきて腰掛けるとお菓子の袋をあける。こんな時間にいいの?なんて迂闊に聞いたら叩かれた。

「本読んでたんだけど、一向に眠くならないの。ミケランジェロったら夜更かしするぞって言ってたのに寝ちゃうんだから」
「あいつに夜更かしなんて無理だよ。知らなかった?」
「先に言って欲しかった」

ナマエはお菓子を一つ口に放り込んで、恨みがましく言う。

「お泊まりって言ったら夜更かししなきゃつまんないじゃない。私、徹夜する気で来たのに」
「ティーンだから許してよ。それにいつも以上にはしゃいでたから余計ね」
「ああ、いっつも忘れちゃう。そうね。でも私だってティーンよ。それに、私が知ってるティーンはパソコンでプログラム解析なんてしないけど?」
「亀のミュータントってオプションも忘れてるよね」
「そうでした」

お互い声を抑えて笑い合って、僕はナマエが淹れてくれたココアを飲む。
最近観た映画の話。近所にある美味しいケーキ屋さんの話。ミケランジェロが悪戯をして、それにまだ気づいていないラファエロの話。そんなたわい無い話をしつつ、順調に作業は進んだ。

「ねえ、ドナ」
「なに?」
「ドナは、レオとラファとマイキーと。スプリンター先生。エイプリル」
「うん?」
「素敵な家族に、囲まれてるわね」
「あ、ありがとうでいいのかな。でも、急にどうしたの?」
「私も、…………」
「ナマエ?」

作業の手を止め、隣を見る。頬杖をついて眠たげなナマエの目がこちらを見返した。

「私もその中に、入れたらいいのに」
「えっ……」

ナマエは「冗談」と笑ってテーブルに腕を組んで乗せるとそこに頭を埋めて眠ってしまった。

『私もその中に入れたらいいのに』
「……………」

規則正しく上下し始めた肩から、彼女の顔に視線を移す。起こさないよう慎重に前髪を払って、露わになった額にそっとキスをした。

「もうとっくに、君は僕らの家族だよ」

こんなところで寝たら風邪を引いてしまうからタオルケットをかけてあげよう。次いでにココアのお代わりだ。まだまだ作業は終わりそうにない。
そう、僕は席を立ったから、彼女が身動ぎして赤い耳を隠したのに気づかなかったんだ。


END

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