TMNT

□リナリア
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壊れてしまいそうなくらい
心が叫ぶの「苦しい」と
呆れてどうしようもないくらい
心は素直よ「嘘はつけない」

片想いってこんなに辛いのね
でも募らせるだけが恋じゃない
片想いっていうほど悪くないのよ
だってあなたをますます好きになる




そこそこ有名なアーティストの、そこそこ売れた曲だったと思う。

発売当初はいろんな店で、そりゃあもうこれでもかっていうほど入り口とレジ前で宣伝していた。ご丁寧に歌詞をフルで載せて。
でも発売から何日か経ち、有名な音楽番組で七位なんて微妙なランクインを果たしてからは売り上げがそぐわず。店員さんが商品入れ替え時に疲れた顔をしてフルで載せた歌詞ポスターを孫の手代わりに背中かいてたっけ。

なぜだかはわからないけれど妙に気に入って、ふとした時に漏れる私の鼻歌は必ずと言っていいほどこの歌だった。
そして現在、この歌が伝える「片思い」の状況下に私はいた。私の場合ちょっと特殊な片思いである。

お茶目でピザが大好き。そして同じくらい女の子のことが大好きなティーンエイジャー。ついでに言うと亀のミュータント。さらに言えば忍者。うーんちょっとどころじゃなくて結構特殊だった。

彼の名前はミケランジェロ。愛称はマイキー。師と仰ぐ鼠のミュータント、スプリンター先生。それから彼と同じく亀のミュータントであるレオナルド、ラファエロ、ドナテロという兄弟と共に下水道で生活している。最初こそ色々あったものの、今じゃすっかり仲良くなって今日もこうして遊びに来ている。彼らとの出会いは私がある日の真夜中、猛烈にアイスが食べたくなったときのことにまで遡らなくてはならないので割愛だ。

とにかく私は今、そのお茶目亀さんに特殊な片思いをしているのだった。

壊れてしまいそうなくらい
心が叫ぶの「苦しい」と
呆れてどうしようもないくらい
心は素直よ「嘘はつけない」

淹れたばかりのコーヒーを一口飲んで、ピザ箱でできたソファーに腰掛ける。なんだか気分が良くて、鼻歌はいつの間にか声に乗って喉から溢れでていた。

片想いってこんなに辛いのね
でも募らせるだけが恋じゃない
片想いって言うほど悪くないのよ
だってあなたをますます好きになる

いつかきっと届けてみせる
手紙にうんと綺麗な字で
あなたの名前を最初に書くの

「Dear Mikey……なんてね」
「僕?」
「え?うわっ、マイキー!?」

返事をした、と振り向けばご本人。驚いて持っていたコーヒーを零しかけた。いやちょっと零した。

「あっ、あっつ!!マイキー、いつの間に帰って……!?」
「驚かしちゃった?ごめんごめん!それよりねえ今の、僕にって」

そう、この彼が私の片思いの相手。ミケランジェロだ。
キュートな笑顔から一転。恐ろしいほど輝かせた瞳で興奮気味に食いついてくる彼にぎくりとなる。まさか、聞かれていたのか。全然気づかなかった。一体どこから?いや、それよりもこんな形で告白なんてそんな!

「ち、違うのマイキー。いや違うわけでもないんだけど、今のは」
「ナマエ、歌上手だね!なんの歌?ヒップホップじゃないもんね」
「……え?」
「日本語だからなに言ってるかわからなかったけれど、なんかこう、ふわあって感じで!きゅんきゅんって感じ?」

身振り手振りで一生懸命「ふわあって感じ」と「きゅんきゅんって感じ」を表してくれるが今一わからない。そうじゃない。そうじゃなくて、そうか、日本語。

「日本語だから、わからなかった?」
「うん……でも、素敵な歌なのは伝わってきたから」
「そ、そっか、うん。いや、そう!素敵な歌なの。気に入ってくれた?」
「すっごく!」

ああほらこの笑顔。一気に鷲掴みにされる感じ。ふわあきゅんきゅんって感じ。
ニューヨークに来てから英語が当たり前になっていたから、この歌がJ-POPであることをようやく思い出した。無意識って怖い。
私はほっとしたんだか残念だったんだかよくわからない気持ちになって彼にソファーを勧めた。回りこむのではなく背もたれをぴょんと飛び越えて隣に座った彼は、にこにこと上機嫌で私の引きつった顔を覗き込んでくる。

「ねえねえ、さっきの訳してよ。なんて言ってたの?」
「エッ!?それはちょっと」
「ええ?なんでー?」
「う、うーんとじゃあね。大雑把に訳すと……友情は素晴らしい、的な?」
「ふーんなるほど!僕ら仲良いもんね、ありがとナマエ!」
「どういたしまして……はは」

私の心中も知らないで無邪気に喜ぶ彼にちょっと悔しくなった。英語の歌、練習しようかな。


END

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