TMNT

□わだかまり平行線
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とても、些細なことで喧嘩をした。

私も母さんも頑固だから、私が感情の弾みで「こんな家出て行く」といったのを母さんは「勝手にしなさい」と引き止めなかった。

(なによ、私の気持ちも知らないで)

かっと熱くなった頭のまま家を飛び出して数十分。夜の冷たさと幾ばくかの後悔がじゃらじゃらと足枷のように絡みついてきて、けれどそれを蹴っ飛ばす勢いで私は歩き続けた。
ようやく足が止まったのは、取り壊しも頓挫したらしい廃工場。破れてまるで役に立っていない金網をくぐり、裏手に回って少し小さめの倉庫を見つけてその陰に腰を下ろした。
腕時計は深夜の二時を指していて、家を飛び出してから結構な時間が経ったことを知る。あれだけ偉そうなことを言っておいてのこのこ帰るなんてなんだか悔しかったから、私は本気でここで夜を明かそうと思った。
両足を抱えて目をつぶった、そのときだった。

「おい、お前なにしてんだ」

人も寄り付かないような廃工場の、さらに裏手にある倉庫の上から声がかかるなんて思ってもみなかった私は飛び上がって驚いた。慌てて上を仰ぎ見るものの、姿は見えず。

「誰?」
「なんだか知らねえが、こんな時間にうろつくもんじゃねえよ。さっさと家に帰れ」

自分とそう年の変わらない男の子の声だったので、上からの物言いに少なからずむっとした。

「なによ。あんただってどうせ家出してきたんじゃないの?」
「家出なんかするかよ。俺様はパトロールの最中だ」
「パトロール?」

予想だにしない答えが返ってきて復唱してから大いに笑い飛ばした。案の定相手は怒って俺様はニンジャだとかなんとか言い出したけれど、ますます本気にするわけがない。
不思議なのは結構短気な方らしい彼がこんなに馬鹿にされても姿を見せないことだった。

「えーと、パトロール?大変だね」
「信じてねぇな。別にいいけどよ」
「ねえ、なんでそんなところにいるの?降りてきなよ」
「やなこった」
「なんでよ」
「なんでもだ」

降りてこい絶対降りない。そんなやりとりをしばらく続けて結局は私が折れた。

「なにか事情があるのね?仕方ないな。ねえ、じゃあ名前は?それならいいでしょ」
「………、…ラファエロ」
「私はナマエね。よろしくラファエロ」

そんなこんなで強引に友達になったラファエロに、親と喧嘩して家出してきたことを言えばすごい剣幕で怒られた挙句「早く帰れよ。きっと心配してるぞ」なんて優しく諭されてしまったものだから、その日は大人しく帰ることにした。
家に帰ってお母さんどころかお父さんにまでこっぴどく怒られることになるわけだけど、ラファエロという、姿を見せない不思議な男の子との出会いに私はすっかり浮かれてしまっていた。
翌日。親に内緒で家を抜け出し深夜二時のあの場所、廃工場裏の倉庫に行った。もしかしたら今日は来ないかもしれないと思ったけれど、

「げっ、お前!」
「ラファエロ?パトロールお疲れ様!」

彼はやってきた。翌日もその翌々日も。彼は必ずやって来た。
かくして、私の、深夜二時の不思議な友達との交流が始まったのである。
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