TMNT

□逢いたいが情、見たいが病
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「ドナに好きな人がいるって本当?」

チャンスだと思った。フローチャートが頭の中で幾重にも枝分かれして次々と構成されていく。しかし、僕の頭の中では既に、都合のいいゴールが燦然と輝いていた。

「本当だよ、出会ったときから一目惚れだったんだ!近くにいるだけで心臓は破裂しそうだし、見つめられるとじっとしていられなくなる」
「ド……」
「会えない日は声が聞きたくて仕方なくなって電話帳を開くんだけど、声が聞きたくなったなんて言えるはずないし、かといって気の利いた会話ができるっていうわけでもない」
「あの」
「だから代わりにメールを作るんだけど、結局それも送れなくてゴミ箱行き。我ながら情けないよ。でも初めてなんだ。こんなに誰かを、その、好きになるなんて」
「……………」

いかに君のことが好きで、好きで好きでたまらなくて、どんなに僕が君のことを想っているかを伝えたかった。けれど伝えたところで君がどう受け止めてくれるかがわからなかった。
こればっかりは、フローチャートも不完全なまま、作りかけのメールもろともゴミ箱行きとなる。都合のいいゴールは夢想として別枠にあるだけのことだった。
例え答えがノーで、でも優しい君のことだから、ミュータントな亀の恋をあざ笑ったりしないだろう。きっと、優しさでひたひたになったオブラートで包まれた、遠回しの“ノー”だ。
それがどんなに慈愛に満ちていても僕は立ち直れないと思う。きっと、いやこれに関しては絶対に、見苦しくて未練タラタラな視線を送り続けてしまうと思う。
そうなるくらいなら伝えずにいる方がいいんだ。その方がお互い何も気まずい思いをせずに済む。なんて。

数分前までは思っていた。

「つまりはそういうことなんだ、ナマエ。夢にまで影響するということはそれだけ僕の脳に彼女が大きく存在しているということで」

止まることを知らない思いの丈々。目の前の君が驚きを通り越して妙に落ち着いているのが余計、僕の口を止まらなくさせている。

「だから、朝起きて一番に考えるのは彼女の事だし、夜寝るときに考えるのももちろん彼女のことだ。彼女のことでいっぱいなんだよ。それはもう、どうしようもないくらいね。ああ、だからといってパトロール中とか修行中にぼーっとしてるわけじゃないよ?この修行が彼女の身を守るための力になるんだって思って、あっ、もちろん、町を守るためでもあってね。ああっ、だからとにかく、ぜひ聞いてほしいんだ!僕が好きなのは」

そこまで言うと、呼吸を整えるために息を深く吸い込んだ。そうしていざ好きなのは君だと言おうとした時、僕の唇に人差し指が置かれる。誰のものかなんてくどいから言わないで置こうと思ったけど言う。そう、彼女のものだ。

「ドナ、よくわかったわ」

彼女はふう、と、僕とは逆に、息を浅く吐き出してみせる。依然として唇に彼女の人差し指が置かれているため、なにをと尋ねることも続きを再開させることもできない。決して、彼女の柔らかい指先に頭が真っ白になったからとかではない。

「私、とっても失礼だったわ」
「(失礼?)」
「私はあなたのように亀でもミュータントでもないのに、あなたの恋が上手くいくかどうか心配してたの。きっと相手は私のように、亀でもミュータントでもない人間の女性だろうと思ったから」
「(……ん?)」
「けれど、あなたの想いを聞いて思ったの。彼女はとても優しくて、思いやりのある人なのね」
「(ナマエ?)」
「話の節々から伝わってきたわ。彼女がどんなに素晴らしい女性か。あなたたちのことを理解して受け入れてくれている。あなたの気持ちを踏みにじるようなことはしない人だって!」

指先の柔らかさを忘れるくらい焦り始める僕と比例して、彼女の熱意はどんどんと高まっていく。しまいには指を離して僕の肩をがしりと左手で掴み、右手でガッツポーズを作った。

「私もドナが彼女を想うように、あなたたちのことが大好きだから、もし答えがノーで傷ついたりしたらって思うと辛かったの。けれど大丈夫。彼女ならしっかり受け止めてくれるわ!だから頑張ってね、応援してる!」

僕の両手をひったくるように掴んでぶんぶん振ってから「安心したから今日は帰るわ。またね」と、彼女はお茶目にウインク一つを残してその場から去って行った。
僕は身じろぎひとつできずに彼女を見送ることしかできなかったが、扉が閉まると同時に部屋の隅々から耐えきれずに吹き出す声が三つほど聞こえてきたので、まとめてぶっ飛ばしてやろうと背中の棒を静かに引き抜いた。



END

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