TMNT

□ほうまつ
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※幼妹設定



「そうして、王子様とお姫様はいつまでも幸せに暮らしました」

エンドの文字まで読み終わると、絵本はそれまで散々描いていた煌びやかな宮殿から、出版社と発行年が書かれた現実的な背表紙に姿を変えた。
修行も鍛錬も済ませたとき、ナマエが絵本を抱えて駆け寄ってきた。最近の彼女のお気に入りである、絵本の読み聞かせだ。ドナテロがポイント稼ぎをするかのように買いまくり、下水道の一角は絵本の図書館と化している。
最初はこれはなに?これは?と質問攻めだったナマエだが、なにか思うことがあるのか、最後は俺の胡座をかく足の中で静かに聞き入っていた。
ナマエが小さな頭をゆっくりと上げて、俺の顔を見る。

「ハッピーエンドね。よかった」

お気に召さなかったか、という心配はナマエの顔に浮かぶ表情で取り越し苦労だとわかった。そうだな、と彼女に笑いかけると抑えていた興奮が弾けたらしい。

「どうなるかと思っちゃった!おひめ様がドラゴンにつかまっちゃったところ。王子様ったらけがをして動けないなんていうんだもの」
「お姫様も気が気じゃなかっただろうな」
「わたしはおひめ様ほどドキドキしなかったわ。レオがなんでもないように読むから」

それまでの興奮した顔から一変、今度は意地悪そうな笑みを浮かべて見上げてくる。ナマエの柔らかな髪をくすぐったく思いながらごめんよ、と苦笑いした。

「でも絵本を読んでもらうのはレオが一番よ。ドナはちがう話を始めちゃうし、マイキーはわざとこわーい声を出すの。耳元で。だからいや」
「ラファエロは?」
「ラファは読んでくれないもん」

頬を膨らませるご機嫌斜めな表情を最後に、ナマエの顔が絵本に戻っていく。ぱらぱらと小さな手でめくり、お目当のページを見つけたのか、また俺を振り仰いだ。

「わたしこの絵がすき」
「どれ?」
「これ」

ナマエが指差すのは広い宮殿のホールでダンスを踊る、王子様とお姫様の絵だった。ドレスや燕尾服で着飾った村人たちに見守られ、豪華な料理やシャンデリアが縁を飾る。絵本のイラストながらも、それは豪華絢爛で。俺は顔を上げて、無骨なコンクリートでできた地下のホームを少し自虐的に見た。
ナマエはまだ、その絵に見入っている。

「ナマエ」
「なに?」
「……ナマエも、こんなところに住んでみたいか?」

やや時間を空けて、不思議そうな顔が俺を見上げた。

「きらきらしていて不自由ない暮らし。こことは、下水道とはまるで違う」

周りを見渡す俺を真似して、ナマエも周りを見渡した。
装飾どころか、冷たい暗色がむき出しになったコンクリート。ふかふかしたビロードではなく、ピザ箱でできたソファー。馬にまたがる騎士の勇ましい油絵ではなく、ミケランジェロがどこからか拾ってきたファンキーなポスター。

「どう思う?」

亀でも鼠でも、ましてやミュータントでもない。地下にいるにはあまりにも不釣り合いな小さな女の子が、俺を見上げて一つ二つと瞬きをする。

「そこにレオはいる?マイキーは?ラファとドナと、スプリンター先生もいる?」
「どうかな。ナマエが呼んでくれればいるかもしれない」
「かも、はいや。だったらわたしは住みたくない」

ナマエは自分が抱えていた絵本の、先程のページを持ち上げて俺に見せてきた。

「わたしはね、みんなといつまでも、今みたいにわらってピザを食べたり、かくれんぼして遊びたい」

ナマエの指は豪華な料理やビロードのソファーをさしていなかった。幸せそうな笑顔を浮かべる王子様を、お姫様を、村人たちを、さしている。

「それに、やさいがいっぱい入ったスープより、チーズがたっぷり乗ったピザの方が何倍もおいしいと思わない?」

今度は俺が瞬きをして、ナマエを見る番だった。そうしてどうしようもなく頬が緩むのを、次の絵本を持っておいでと小さな背中を押して、ごまかした。




END

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