TMNT

□PLEASE DO NOT DISTURB
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修行が終わり、刀の手入れも終わったとなるとやることは一つ。瞑想だ。

道場の真ん中に胡座をかき、精神統一。ミケランジェロが流すヒップホップの大音量も、ドナテロが励む何かの修理音も、ラファエロがそれらに対抗するように音量を上げたテレビのレポーターの声も、今の俺には小鳥のさえずりのようにしか聞こえない。動かざること山の如し。確かそんな日本の言葉があったはずだ。
しばらくの時間が流れたあと、ふと、胡座をかく足に重みを感じる。ゆっくり目を開ければ自分の胡座をかく足とナマエのさらさらした髪が一番最初に飛び込んできた。少なからず驚いて身じろぎしそうになるも、ぐっと堪える。

ナマエが、俺の胡座をかく足を枕のようにして眠っている。

彼女の体勢から考えるに、隣に座って俺の真似をしたはいいが、途中で夢の世界へと旅立ってしまったのだろう。傾いだその体の先には俺の足があって、丁度枕のようになったと。
そこまで考えてなるほどと納得。ようやく冷静になれた。しかし、お世辞にも柔らかいとは言えない骨ばった足を枕にして、よく寝られるな。
ソファーで寝かせた方がいい。そう判断して立ち上がろうとするが、

「んん……」
「!」

ナマエが居心地悪そうにもぞりと動いて、右耳を見せていた頭を上に向けた。
ひそめられていた眉が穏やかな曲線に変わる。閉じられた瞼を飾るまつ毛の長いこと長いこと。薄く開いた唇は触るまでもなく柔らかそうだと思った。
ごくりと知らないうちに喉が鳴る。床についていた右手をゆっくり上げて、それから、


(……俺は今、なにをしようとした?)


我に返った。

自分の三本しかない手をしばらく見つめてから、短く息をつく。今度こそ彼女を起こさないように慎重に立ち上がろうとして───ぎくりと固まった。
道場の入り口から顔を覗かせているのは橙のマスク。ミケランジェロだ。オレンジジュースの缶を片手に、口を「あ」の形に開けている。すうっと息を吸い込む音が聞こえたので咄嗟に「マイキー!」と叫んだ。もちろん出来るだけ声を抑えて。

「だってレオ!それ膝枕ってやつじゃん!」
「いいから静かに!」

騒ぐな起きる!この際起こしちゃいなよ!と小声だが力の込められたやりとりはなんだなんだと他の兄弟たちを呼び寄せてしまった。

「ハッ。随分と煩悩にまみれた瞑想だな」
「同感」
「ずるーい!僕もやりたい」
「いやこれは」

兄弟たちのヤジに思わず体が動いた。あっとナマエを見下ろすが少し身じろぎしただけで終わる。

「はあ……いいか、これは仕組んだわけじゃない。今だってナマエをソファーに移動させようと」
「いや、そのまま寝かしておいてあげたら?疲れてるみたいだし、起こしたら可哀想だよ」
「そうだな。いいセイシントウイツになるんじゃねえの」
「わかった!じゃあ僕がレオの代わりに」
「「マイキー」」

え、ウソ!なんでー!と引きずられていくミケランジェロを呆然と見送る。それから自分の膝で眠るナマエを見下ろした。気持ちよさげに閉じられた瞼にしばらく開く様子はない。

「確かに、いい精神統一になりそうだ」




END

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