TMNT

□喉元過ぎれば
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忍び足。何も本物の忍者だけが体得できるものではない。抜き足差し足忍び足なんて言葉があるように、練習こそすれ、やろうと思えば誰にでもできる歩行法だ。
抜き足差し足忍び足。例えば、何かやましいことがあって、誰にもばれないように目的を達しようとする場面に使われる言葉であるが、私の場合、まさに今がその場面。
あいにく私はここでいう“本物”であるから、気配を消し、物音を立てないよう移動することは基本中の基本。目的のものを見つけ、そっと周りを見渡す。誰もいない。任務達成だ。
しかして取っ手に手をかけたその時、緑色の肌で三本指の手が私の手の上に重ねられたのだった。

「救急箱に何か用か?ナマエ」








そこに座りなさいと、救急箱を持って先導するレオナルドが言う。青いマスクの端が大きく揺れて、怒っている時の猫のしっぽのようだと、項垂れながら私は思った。
ピザ箱でできたソファーに腰掛ける。レオナルドは濡れたタオルを持って戻ってくると、テーブルを横にずらして私の前に跪き、救急箱をあけた。薬品薬剤の匂いが香ってくる。

「右足を出しなさい」
「なんだ知ってたの」

すぐさま静かな怒りをたたえた目が向けられて、呑気な言葉を吐いた数秒前の自分を悔やんだ。
履いているのはショートパンツで、脱ぐ必要はない。大人しく右足を差し出すとレオナルドは左手で掬うようにして足首を包んだ。
時間が経ち、血は止まっている。横に走る傷数カ所を認めて、レオナルドの目がますます険しくなった。

「………………」
「……………」

傷口を、濡れたタオルで丁寧に拭う手つきはいつもと同じ、優しい手つきだったけれど、伏せられた視線は一向に上がらない。それどころか説教も戦術のダメ出しもなしだ。とんでもなく怒っているか呆れられているかは確かだったが、沈黙がとにかく気まずかった。
こういう時に限って、向かい側にあるPCデスクにかじりつくドナテロはいないし、からかってくるミケランジェロも、レオナルドと一緒になって説教を始めるラファエロもいない。スプリンター先生は瞑想に入った時間だ。他でもない私がその時間を狙ったのだから。

「レオ」
「……………」
「レオナルド」
「……………」
「今度は、気をつけるから」

足首を包む手に少し力が加わる。

「それは何度も聞いた」
「……ごめんなさい」
「それも」

傷口が綺麗になると、ドナテロ特製のドレッシング材を貼り、その上から包帯を巻いていく。どんどん白くなっていく私の足を眺めて、レオナルドはようやく顔を上げた。
怒っているのではなく、悲しそうな顔をしていた。

「ナマエ、お前が、俺たちと同じミュータントだったらっていつも思うよ」
「私も……そう思う」
「いや。お前にはわからない」

レオナルドは救急箱と、私の血でところどころ赤く染まったタオルを片手に立ち上がった。

「レオ」
「もう寝なさい」
「レオ」
「おやすみ、ナマエ」

最後まで振り返ることなく、レオナルドは去っていった。どこからともなく現れたラファエロが、私の頭を乱暴に撫でていった。


END

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