TMNT

□一緒に見上げて
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※幼妹主




「ラフ、みてみて」

ソファーに寝転びながら雑誌を読んでいたところそう声をかけられた。顔を上げるとテレビ画面を指差し、明度の高い笑顔を向けてくるナマエがいる。
なにがそんなに面白いんだとテレビを見ると星空特集という字。レポーターが気障ったらしい台詞を交えながら紹介しているが、確かにそれだけ綺麗な星空が画面いっぱいに映し出されていた。
すっかり暗くなった空に点々と浮かぶ星々。ラファエロの目にはせいぜいそれくらいにしか映らないが、どうやらナマエの目にはそれ以上に映っているらしい。

「この人さっきから大げさなの。“おしつぶされそうな”って!でも」
「でも、なんだ?」
「………、見てみたい」

ナマエのその声色はラファエロの問いに答えたそれではなかったが、今読んでいる雑誌が無性にどうでもよくなってくる。周りにいる兄弟たちをちらりと盗み見て、ついでに時計も確認。

「ナマエ」
「なに?」
「抜け出すか。外に」








たぶん、ばれなかった。そしてダミーが仕込んであるベッドのシーツをめくられない限りばれないと思う。

「ラフ」
「来たか。誰にも見られなかっただろうな?」

こっそり家を抜け出すのは、ラファエロが知る限りナマエにとって初めての“ハメ外し”だ。それは合流地点のガレージに現れたナマエが、言われた通りに薄い上着を羽織り、頬をほんのり赤くしていることからして、あながち間違ってはいないだろう。

「レオにおやすみって言ってきたから大丈夫」
「レオナルドに?逆に怪しまれないか」
「ハイタッチにハグもしたよ」

よりにもよって人一倍心配性の長男にやってくるあたり、ナマエにハメ外しの才能がないことがわかった。いや、なくていいのか。

「先生に見つかったらどうする?」
「見つかったときは……見つかったときだ。おとなしく怒られようぜ」
「うん!」

怒られてもいいや、というよりはそれよりも星空!といったところだな。
妙にはしゃぐナマエを横目で見てラファエロの頬が少し緩んだ。



ガレージを出ると少し風が冷たかった。上着を着せて正解だったとナマエを見ると、人の心配をよそにあたりをきょろきょろ見回している。
そんなに珍しいか?と言いかけて、そういえばナマエが夜に出かけるのはこれが初めてだったと思い出す。エイプリルやケイシーに連れられて昼間に出かけることはあっても、夜は初めて。
自分もなんだか妙にそわそわしてきて未だ落ち着きのないナマエの頭を小突くことでそれを紛らわした。なにするの!という文句は甲羅で受ける。

「さーて、どうする?屋上まで登るか?」
「ううん、できるだけひくい場所から見たい。屋上まで登ったら空が近くなっちゃう」
「そうか?」
「そうよ」

ナマエのご希望通りに裏路地を選び人目を避けて歩いていく。
こんな場所でも時間でも、出歩いている人間はなかなかに多く、その多くが自分と同じティーンエイジャーである。非行は言い過ぎだが、家を抜け出して夜遊びがしたいその気持ちがわからないほど、ラファエロは大人びてはいなかった。
なかなかめぼしい場所が見つからず、さらにはお目当の空が狭まって行くばかりでこれは間違った選択をしたな、とラファエロは呻いた。
やっぱり上から探そうと、後ろから付いてきているナマエに声をかけようとして、手に、なにかが絡まった。
みればナマエの手。強張った横顔がその繋いだ手と手に寄り添った。

「ナマエ?どうし、」

そのとき、自分の言葉を遮る下品な笑い声が奥の方から聞こえてくる。ナマエの視線の先からだ。
細い煙が数本。赤い光がちらほら見える。瓶が割れる甲高い音がして、また下品な笑い声が弾けた。
握られた手に力がこもる。

「……………」
「…………」

釵は持ってきた。あちらはまだ気づいていない。ナマエの上着はあいにく暗色で、物陰に隠れれば目立たないだろう。それに素人だ。こちとら“本物”を相手取っている。かすり傷一つ負わせられずにその場は終わる。必ず。ただ……。
自分の体に寄り添う小さな体をふと見下ろす。俺が見せたかったのは、こんなものじゃない。

「ナマエ」
「えっ?なに……うわっ!」

風を切る。コンクリートの壁が下へ下へと流れていく。ナマエの細い悲鳴が混じる中、非常階段の終わりが見えた。

景色が変わる───
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