人見知り芸人@
□好きだから、さよなら、出来ない
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*バカリ視点*
"今日、家に行っていい?"
収録終わり、有吉さんにそう言われた。
"いいですよ"
これだけ聞けば、恋人同士なら普通の会話だ。
……だけど、僕らはもう"恋人同士"ではない。
別に、お互いに飽きたとか、気持ちが冷めた訳ではない。
その理由は、有吉さんが結婚したことだ。
ある日、有吉さんから告げられた。
最初からそうなることは覚悟していたし、有吉さんが普通の幸せを手に入れられるチャンスなら、それでいいと思った。
**
「…俺さ、やっぱり結婚向いてないかも」
「僕みたいに?」
「ははっ(笑)そうかもなー」
「僕くらいしかいないんじゃないですか?有吉さんのいろんなこと受け止められるの」
「じゃあ、結婚しちゃうか?」
「いいですよ、喜んで」
そう言って笑う。
「…これって浮気になるんですかね?」
「さあ…浮気にはならないんじゃない?」
「二股?」
「いや………そうかもな…」
「他にはしてないんですか?」
「してない。ともちゃんだけ」
「そうなんですか」
男同士、なんてどうかしてる。
でも、僕も有吉さんもそっちの人ではない。人並みに女の子大好きだし。
好きになった相手がたまたま男だっただけ、と言いたい。他の人なんてあり得ないと思う。
「なあ、ともちゃん」
「なんですか?」
「また来ていい?」
「いいですよ、いつでも」
「ありがとう」
「いえ」
「もう帰るわ。今日は早く帰る約束してるから」
「ああ、娘さん」
「そう、誕生日」
「プレゼント買いました?」
「うん」
「2歳でしたっけ?」
「そうそう」
「一番可愛い時期ですよねーきっと」
「可愛いねー、まあ、ともちゃんも子供できればわかるよ。きっと」
「そうですねー」
有吉さんは知らないよね。
僕、まだ本気で好きなんだよ。
式にも出れないくらい、おめでとうもろくに言えないくらい、すごく好き。
貴方に出会ったことが、温もりを知ってしまったことが、幸か不幸かわからないけど。
今は有吉さんしか考えられない。
こうして会うよりも、画面の向こうで見る方が泣きそうになるんだよ。
いつからこんなに涙もろくなったんだろう。
「じゃあ、さよなら。楽しんでくださいね」
「おう、ありがとう。じゃあね」
"さよなら"
この言葉で、こんな不毛な恋と、全ての思い出にさよならできたらいいのにね。
そうすれば楽になれるのかな?
……ねえ、どうしたら貴方を見る度に、視界が霞まなくなるの?