灰の色

□その代償は?
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イライラする。

あいつが戦うのが嫌だ。
怪我をするのが嫌だ。

見ていられない。




(その代償は?)





夏休みも後半に差し掛かり二年は全員、美鶴の申し込んだ〈夏期補講〉に出ており不在、天田もコロマルの散歩で外出中、アイギスはメンテナンス。

久々に寮の一階ロビーには美鶴と俺の二人だけになった。
(ああ、久々だなこの感じ)



思い出話をするつもりはないが、最近増えた仲間たちのおかげで寮は毎日騒がしくなった。
静かなこの空間もたまには悪くない。
(もちろんたまにならって話だ)




「いい加減にしろ、明彦」





先にこの沈黙を破ったのは美鶴の方であった。


「なんだ、いきなり…」
「昨日のタルタロスの話だ。明彦、お前は彼女を信じてないのか?」


美鶴の言う彼女とは、俺達のリーダーであり、不思議なペルソナ能力を持ち、いつでも笑顔を絶やさない彼女のことなのだが。

(いきなり何かと思えば…)


信じていないだと?
そんな事、一ミリもあるはずがない。

「そんなわけないだろ、意味が分からないぞ」

あいつは背中を貸せる仲間の一人なんだから。
(仲間、の…一人…?)


「彼女がシャドウと戦っている時、全てに手を出していたじゃないか。彼女は強い、一人でも問題ないだろう。あれでは邪魔をしているようなものだ」
「邪魔だと…!あいつ一人では危ないと判断したから…」


(本当に危なかったか…?)

確かに美鶴の言うとおり、彼女は強い。
十分に一人でも戦える。寧ろ岳羽や順平のが危ういぐらいだ。
そんなことわかっている。


なのに何故、俺はあいつが戦っているのを見ていられないんだ?

気がついたら手が出ていて。
(無意識とは違う反射が身体を支配する)


「彼女はお前が考えている以上に強い。信じてやれ」
「…わかってる。わかってるんだ…」
「明彦?どうした?」


わかっているのに、何故?


(ああ、そうか)


俺はあいつが戦うこと自体が嫌なんだ。
だから見ていられないし、手を出してしまう。


信じてないのとは違う。
嫌なんだ。
(死と隣り合わせなんて、あいつには背負ってほしくない)

これは俺のわがままだ。


「明彦、すまない…お前にはお前の考えがあるのだな」
「な、なんだ急に…?」
「鏡を見てみろ、恐ろしい表情になっている」

差し出された鏡に映る自分の顔。
恐ろしい表情ではないが、かなり深刻な顔をしていた。
(なんだかわかった気がする)

「…はは、もう大丈夫だ」
(理由はわかっている)



「そうか。ならいいのだが、相手に気持ちを伝えるのも信頼、だ」
「確かにな。美鶴、心配かけたな、悪かった」
「構わないさ」


悩むのは性に合わない。
今度あいつに直接話してみよう。
どう伝えればいいか分からないが。
俺が感じてる気持ちをちゃんと。
(お前が戦わないといけないのか?とか…心配だ、とか)


「出来れば戦わないでほしい、とかな」


美鶴にも聞こえないぐらいの声で小さく呟いた。

一瞬のうちに消えた声は、誰にも届くことはなく。


(貴方が戦わないでいいのなら、俺は勝ち続けてみせる)



強さと引き換えに渡した代償はなに?


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