灰の色

□幸せな瞬間
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「大丈夫か?」

声をかけたのは、珍しい色の髪と目を持ち、特殊なペルソナ能力を持つ僕らのリーダーであり先輩。
不思議な雰囲気の男性だ。
(不思議なのが雰囲気だけならいいんですけどね。)

「す、す、すみません…」

今日は先輩 、つまり鳴上悠という人物と本屋に来ていた。
何というか。

デートというやつだ。
高校生には本屋なんてつまらないだろうに、先輩は嫌な顔ひとつせず、ついて来てくれる。

(この人といると本当に調子が狂う)

男として過ごしていた事もあり何か落ち着かない女性扱い。
昔は嫌だったのに先輩相手だと何だか嬉しい。

(まさか自分もこんなこと考えるなんて)

僕たちは、はたからみたら仲のいい友達。恋人同士には見えないだろう。

何故かというと僕が未だ男物の制服を着用しているのだから。

ふと上をみると隣に立つ先輩と目があった。

「な、なんですか!」
「いや」
「あまり此方を見ないでください…」

先輩に見られているだけで頭が混乱し、自分でも何を言ってるのかよく分からなくなる。
(頭と口が別々に動いてる、そんな事を言いたいわけじゃないのに)

「直斗」
「はい?なんでしょうか」

さっきの見ないでは間違えたと言いたいが、やはり口からでる言葉は頭で考えているものとは異なっている。
(恋とか、僕にはやっぱり向いていない気がしますね)

「辰巳ポートアイランド、覚えてるか?」
「ああ、覚えていますよ。何故急に…?」

突飛よしもない会話展開。
彼らしいといえばそれまでだが。

「…んー」
「?」

先輩は無表情のまま少し目を泳がせた。


(ん?)
この反応は人が言葉に困った時にする行動で。先輩にしては珍しい。


「こ、今度は二人でいかないか?」
「ふは?!な、どうして…」

多分今、変な声を出したはず。
予想の範疇を余裕で超えていたから。

「…どうして、って…旅行だ」
「それはわかりますよ!そうではなく」
(何故、僕と…)


やはり先輩は不思議だ。


そしてなんで僕はこの人の言葉に一喜一憂、振り回されなければいけないんだ。
(僕なんかより他の友達と行く方が絶対にいいはずなのに)

「直斗と二人で行きたいからだ」
「せ、んぱ…い」
「二人の時は悠でいい」

先輩は大きくため息をついた後、天然か、図ったのか、はにかむように笑った。
やっぱりずるいですね。先輩は。


「でも先輩、他の方達と行ったほうが…楽しめるかもしれませんよ」
「それはイエスと受けとっていいんだな?」
「な、な、なんでですか!」
「顔が笑っていたから」


先輩は笑顔のまま僕の頭を撫でた。

「子供扱いはやめてください」




「子供扱いじゃない、恋人扱いだ」



幸せな瞬間


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