灰の色

□残された者
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ああ、今日はなんでこんなに晴れているのだろう。

寮の一階ロビー。
私は非常口近くに座り込んでいた。
いつも荒垣先輩が居たあたりの場所。
今は授業中だから、ここには誰も居ない。



あの日、私達は大切な仲間を失った。




残された者





思い返せば悔やまれるばかり。
流した涙はまだ渇ききってない。

(荒垣先輩…)





私はあの時、ただ泣く事しか出来なかった。
なのに荒垣先輩の「泣くな」の声が耳に残っている。





(何で、あんな事に…)


私は気付けたはずだ。
荒垣先輩は私に伝えていたのだから。
(居なくなる事を遠回しに…)

「どうし、たら…いいの…」

また一筋の涙が流れる。
つい前まではここに荒垣先輩が居た。
この場所に立ち、野菜を食えと笑っていたのに。
今は居ない。



(ちゃんと…みんなが帰ってくるまでには笑いますから、今だけは許してください、荒垣先輩)


ガチャ…
近くで物置がした。
寮のドアを開ける音。





(え…?こんな時間に人が…理事長かな?)





幸いここは入り口からは目立たない非常口の前。
黙っていれば気付かずにやりすごせるだろう。
こんな姿、誰にも見せたくない。

「お前…学校はどうしたんだ?」
「……さ、なだせんぱい」


何故この人はこんな時だけは勘がいいのだろうか。
いつもは大切な事すら見落とすくせに。


「見つかっちゃいました?」
「お前は不器用だから、こんな事だろうと思ったんだ」


そう言う先輩も真っ赤に腫らした目をして。
(不器用なのは貴方の方です)




「今、ラーメンを食ってきたんだ。あの日からたまに授業をサボって行くんだ。あいつが…シンジがよくやっていたからな」
「先輩がサボりなんて珍しい」
「…ああ。そうだな。確かに今までした事はなかったが、意外にいいもんだな」
「よくないですよ、サボり」
「じゃあ今度はお前もくるか?共犯だ」
「はは、先輩のオゴりなら喜んで」




いつものように笑顔を作ると、真田先輩は少し眉を寄せた。少し痛々しく見えたかもしれない。


「お前は本当に……なんでもないっ」


途中で喋るのをやめ、真田先輩は隣に座った。
肩から伝わる人の温度がなんだか安心する。
(あの時、しがみついた先輩は本当に冷たかったから)




「もう一人で泣くな。俺を呼べ、授業中だろうとサボって付き合ってやるから…」
「…じゃあ先輩も、一人でラーメン食べに行かないでください。付き合いますから」


「ああ…奢ってやるから来てくれ」
「はい…」




真田先輩の肩は小刻みに震えていた。
泣くのを必死に我慢しているのだろう。
とても強くて、でもとても弱い先輩。




みんなこうやって乗り越えていくのだろうか。
私も乗り越えなきゃいけないのだろう。





(私達は何を失っても、後ろを見る事は許されないのだから)


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