灰の色
□鈍感
1ページ/1ページ
「キャー!真田せんぱーい!」
「ちょっとアンタ、抜けがけ禁止だっつーの」
今日も海牛の前は繁盛、繁盛。
鈍感
本の虫からの帰り、すごい人混みを見た。
(わあ、すごい…なにこの人混み)
日本人の本能か、人混みを見るとついつい中を確認したくなる。きっとこの中の一割の人が私と一緒の気持ちだろう。
(うわ、本当キツイ…すっごいなあ…)
人に揉まれつつ、先頭にたどり着いた。
(あ、やっぱり海牛か…)
しかもその先頭に居たのは。
「あ、リーダーじゃないか、お前も海牛か?」
「……やっぱり真田先輩ですか」
「やっぱり…?」
「な、なんでもないです」
「今日はやけに混んでるな海牛…」
(貴方のせいでしょ!)
喉元まで出てきた声を何とか飲み込み、ため息を一つ。
(真田先輩は…天然…だからなあ)
「早く店に入らないと、迷惑になるからはいっちゃってください」
諭すように言うと真田先輩は少し目をおよがせて。
(わかってくれたかなあ…)
「なら…お前も一緒にどうだ?奢ってやるぞ」
当たり前みたいな顔をして、周りのギャラリーに火をつける事を言う。
(分かってないのね…)
「え…え、と」
「お腹一杯なのか?普段なら大喜びだろ。なら違うものにするか?」
私は言葉を濁しつつ、周りの目を気にすると、射抜かれそうな勢いで睨まれた。
(この状況で、普段なら…とか言いますか、この人は)
ファンクラブが出来るほどの大人気の真田先輩。
なのに、なんでこんなに抜けているのだろうか。
そこが彼の魅力でもあるが。
(少し気づいて欲しいな…私、ファンから呪い殺されちゃう)
「なにあの女…真田先輩のなんなの」
「うざーい、さっさと帰れよ」
「つかあれ伊織の彼女じゃね?」
「二股かよ、まじありえない」
外野がどんどん煩くなる。
(怪我する前に帰ろう…)
「先輩、今日は…」
お断りしようと口を開いた瞬間、真田先輩に手を取られた。
「ちょっ…と!」
「悪いがどいてくれないか。俺はこいつと飯を食いに行くんだ」
(変な所だけ、押しが強いというか…)
そのまま海牛の前を後にした。
「何処に行くんですか…?」
「はがくれ…とか」
「…」
あんな注目を浴びながら、連れ出されたものの結局、本当にはがくれに来た。
(こんな近くの店に来ちゃうのも、真田先輩らしいかな)
「ここでよかったか?他にお店を知らないんだ」
「大丈夫です!特製大盛りで」
「ああ、もちろんだ!サイドもだろ?」
「はい!」
メニューを頼み、ラーメンが運ばれて来たのに真田先輩はまだ気まずそうに顔をさげたままにしている。
「どうしました?先輩…」
「いや、さっきはすまなかった…お前が悪く言われてるのが我慢出来なくて、つい…」
(あ、連れ出した事か…一応気にしてくれてたのか)
笑いながら箸を割り、ラーメンに手をつけた。
「気にしないでください!早く食べましょ」
それでも真田先輩は顔を下げたままでいる。
(そんなに気にするなら、他の所を気にして欲しいわ…なんて)
「俺は…お前が、順平の彼女って言われて…イライラした。違うとお前から確認したのに、まだイライラしてるんだ…可笑しいだろ」
「せんぱい…それ、私にいいます?」
苦笑しながら真田先輩の顔を除きこむと、先輩は本当にイライラした表情をしていて。
なんだか本当に気持ちの整理がつかないみたいで。
(そんな事言ったら、どんな女も勘違いしちゃうよ…先輩。そうだからあんなに追われちゃうんです)
「なっ、すまない…!確かに失礼だったな」
「いやそういう訳じゃ…」
(このニブチン!)
心の中で叫んだのは秘密。
(そんな風に気を持たせる事を言う真田先輩が悪いんですから)
「真田先輩はズルいです」