灰の色

□幸せレシピ
1ページ/2ページ



「狂ってやがる」


先に口を開いたのは荒垣先輩だった。


荒垣先輩の部屋。
何もない部屋におかれているシンプルなテーブル。


その上には散々な姿に変貌を遂げた、食材達。





今日、料理部にて作ったお菓子(仮)なのだが。
最早、物体Xになってしまっている。


「あ、ははは…」


もう笑うしかない、という。


風香がアレンジを加えて作ったものなんだけれども。
(私がトイレに行ってる間に〈自主規制〉を入れちゃったみたいなんだよね…)


「で、俺にどーしろってんだよ、これを」
「何とか、食べ物に戻せないでしょうか」


輝くそれらを捨てようとした風香から無理やり奪い、貰ってきた物なのだが。
(風香があんなに頑張って作った物だから…食べたい)


でもこのお菓子は一口で人間を悶絶させるぐらいの威力を持っているのだ。
(さっき、自分の部屋で1時間は悶え苦しみました)


「馬鹿言ってんじゃねぇ。七色に光ってんじゃねーかよ」
「き、綺麗でしょ?」
「馬鹿か!…これ、あいつの仕業か?お前、料理出来たよな」
「…人並みには…」

苦笑いをする先輩の前に、自分の作った方のお菓子を差し出す。


「こっちは私が作った、お菓子です」
「…美味そうだな」
「荒垣先輩の為に作りました」


少し驚いた表情をしてから、心なしか顔を赤くして。
(うん、喜んでくれてるみたい…)


「馬鹿…」

と、いいながら作ったクッキーを一口。


「ん。美味い」


優しい笑顔と共に私のが頭を撫でてくれた。
先輩はやっぱり優しい。




「問題はこれか…」
「風香、頑張って作ったんです」

先輩は苦笑いしながら、物体Xを色んな角度から眺めている。


「で、これには何が入ってだ?」


「それは…〈自主規制〉とか…」



「……パスタでも作る気だったのかよ」
「あ、ははは」




先程から自主規制をかけている食材は、つまり。
アンチョビやらイカスミやら他にも色々とイタリアンに使う食材が沢山入っているのだ。



「……そうだな、これをスライスして…」
「いけます?」

おそろおそろ、先輩の顔を覗きこむと、少し困った様に笑った。



「…まあ、試してみるか。わからねぇけど少しはマシになるんじゃねぇかな」



と、一言だけ残し、先輩は寮の一階へ向かった。
台所に行ったのだろう。

「ま、待ってください!」



次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ