灰の色
□プレゼント
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「荒垣さん、相談が…」
寮の一階、彼女は人の目を避けながら、俺に声をかけてきた。
その手には可愛くラッピングされたお菓子が。
「なんだよ…」
「私、コレをあげたくて…」
差し出されたのは、やはりお菓子。
コイツからお菓子を貰える奴は幸せ者だなーなんて。
柄にもない事を無意識に考えていた。
(おいおい、何考えてんだよ…)
「おめぇなら誰でも喜んで貰ってくれんだろ。頑張ってこい」
何で俺がこんな事言わなければいけないのか。
(自分でもよく、わからない)
背中を押したのだが、彼女はこちらをじっと見つめたまま動かない。
どうやら求めていた事が違ったみたいだが。
…
(ちょっとまて、俺から渡せってか?!ソレ、男相手にだろうが。馬鹿か!ありえねぇだろ)
「なんだよ…俺に何をして欲しいんだよ…」
「…あ、いや、」
彼女は目を泳がす。
(俺からのが自然に渡せる奴なのか?)
「…、アキにか?」
答えは一つ。
ああ、こいつはアキに渡したいのか。
もし、こいつがアキの事が好きならば、俺にとってもありがたい事のはずだ。
アキには誰か、支えてくれる奴が必要だから。
(一人じゃ何するかわかったもんじゃねぇ)
もしこいつが側についててくれるなら俺も安心して…
(でも、考えただけでイライラしちまう。小せえ人間だな、俺も)
「…、ちがっ…」
ふ、と見た彼女の顔は本当に悲しそうで。
どうやら俺は何かを間違えてしまったみたいだ。
(天田にか?天田になら俺からは無理だな)
「…俺に何をしろってんだよ」
我ながら嫌な奴だと思う。
これはただの八つ当たり。
こいつは確かにいつもリーダーとして、皆のムードメーカーとして一生懸命頑張ってはいるが、ただの女なんだ。
(男らしくなかったな、本当)
「…先輩、に、です」
彼女の口からでた言葉はやはり予想通りの物で。
(なんだよ、やっぱりじゃねぇか。なんでさっき否定しやがったんだよ)
「だーかーらー、アキにだろ?直接渡せ。その方があいつも喜ぶだろ」
アキの奴もこいつの事を頼ってるみたいだったから、少しでも俺が二人の手助けになれば、なんて。
柄にもない事を考えていた。
(たく…世話がかかる奴らだ)
「違っ…」
彼女は焦りながら、否定の言葉を。何故だか必死なのだけは見てとれた。
「は?」
「荒垣、先輩に、です…」
俺、に?
嘘だろと、半信半疑でラッピングの裏に添えられたカードを見るとそこにはしっかりと〈DEAR.荒垣先輩〉と書かれていて。
(お、俺がめちゃくちゃ鈍感みたいじゃねぇか…)
本当は受け取ってはいけない。
コレを受け取ったら
(この世に未練が残る)
なのに、俺の手はしっかりとそのお菓子を掴み。
(喜んでる自分がいる)
「……お前なぁ、俺に、俺の相談するなよ、馬鹿か…」
ありがとうのかわりに、でた言葉はテレ隠し。
「す、すみません…先輩しか思いつかなくて…」
顔を赤くして下を向く彼女。
そんな姿が可愛くて愛しくて。
踏み込んではいけないのに。
(大分、やられてんな…俺も)
「馬鹿。…まぁ、サンキューな。」
(これ以上踏み込むのは、悲しむのはお前の方なんだ)
なんて償いにもならない言葉を。