Blaue Störung

□5話
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 オレは、何をしていたんだろう・・・。
意識が朦朧としてぼんやりとする頭で考える。

何かに揺さぶられている気がする。
ああ、確かオレは天空闘技場で――・・・

そうだ、フォース!!

「ゼン!」

「あ、にき・・・」

兄貴がほっとしたように息を吐いた。

途端、ズキッ、と、胸に痛み。
どくどくと血が流れている。
出血多量で死にそうだ。

「もうすぐ着くからな」

兄貴がオレを安心させるように言う。
目の前に見えるのはパドキアにある家。

「フォース、は?」

「・・・息はあるが、厳しいな」

がちゃりと扉が開く。

兄貴は自分のベッドだということも気にせず、フォースを寝かせる。
白いシーツが赤色に染まっていく。

「あに、き、おろせ」

「・・・・・・」

困ったように眉間にしわを寄せた。

「は、やく!」

口の端から血が流れる。
くそ、叫ぶんじゃなかった。

「・・・ああ」

兄貴はゆっくりとオレを降ろす。
兄貴に肩を支えられた状態で、フォースに近づく。

「オーラ、使い切るなよ」

「あた、り、まえ、だ」

フォースに手を翳す。

「"フォースの怪我を回復"」

目の前がふらついてきた。
ぼやけてくる視界。
フォースの傷が塞がっていくのがなんとなくわかる。

「・・・・・・っく」

「ゼン・・・」

「大丈夫、だ」

「もういい」

「怪我が、ぜん、ぶ、なおる、まで・・・」

「十分だ、これ以上しなくてもフォースの怪我は治る」

「・・・う、あ・・・」

がくんと、視界が揺れる。
膝をついてしまった。

「がはっ、ごほっ」

「お前が死ぬだろ、」

「死なねえ、よ・・・!」

「ゼン!!」

すぐ近くで怒鳴られて、びくりと体が震える。
頭も上がらなくなってきた。
兄貴を見上げれない。

「オレは・・・」

切羽詰ったように兄貴は言う。


「お前に、死んで欲しくないんだよ・・・!!」


目を見開く。

「あにき、」

「フォースはもう大丈夫だ、だから、」
――無理しないでくれ・・・ッ

蚊の泣くような声で言った。
上から雫が落ちてくる。

兄貴が、泣いてる・・・?

そう考えると、オレまで涙が出てきた。
今まで、オレの前で兄貴が泣いた事は無かった。
いや、きっとオレが生まれてから泣いたことが無い。
もしかしたら、もうずっと昔から。

そんな兄貴が、泣いてる?
弟が、オレが死ぬかもしれないということに。

オレの馬鹿。
兄貴を泣かせてどうすんだ。
オレが死んだら兄貴どうなるんだよ。
兄貴の悲しむ顔なんか見たくねえ。

「ぐ、う・・・っ」

「ゼンッ!!」

「じ、ん、に・・・さ」
――ジン兄さん

10歳にもならない年の時に、呼んでいた呼び方。
続きの言葉を発するため、息をひゅう、と吸った。

大好き


この言葉が届いただろうか。


「・・・ゼン、」
――オレも、だ

素晴らしい兄弟愛だぜ、と我ながら思う。

オレの顔を覗いてくる兄貴。
ああ、もう、泣くなよ・・・。

笑えよ。泣き顔とか、似合わねえ

こっちのセリフだ、馬鹿弟

兄貴は泣きながら笑った。
オレも、ふっと笑う。

何も、見えなくなった。
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