Waxing Crescent

□kapital.02
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「左舷に新たな機影確認。ナスカ級3隻。フェアトラーク艦隊です!!」

「熱源確認。隊長!!主砲撃ってきます」

「馬鹿な、退け!!全軍撤退だ!!!」


両軍入り乱れる戦場に一筋の砲火
それはまるで、どちらの援護という訳ではなく、ただただ己の進路を切り開くかの如く現れた


「あの馬鹿艦はどこの部隊だ!」


怒りのままに張り上げる声
力任せに蹴り上げられる椅子

ボルテール艦内に響くその音は、イザークの機嫌の悪さを示すジュール隊特有のバロメーター
慣れるまでクルーたちはその感情の激しさに萎縮し、若いが故に反感を抱く者も少なくなかった
しかし、イザークの厳しさはしっかりとした考えの上の厳しさであり、強いてはそれが自分たちの命の安全に繋がっている、と時を同じく過ごす中で各々気づき、信頼・人望へと変化していた


「ナスカ級フェアトラーク、レリクト、フェスト。シュヴァリエ隊と確認」
「シュヴァリエ隊だと・・・」

忘れかけていた名に傲慢な後姿と屈辱的な言葉が鮮明に蘇る

『おいおいイザーク、どうなってるんだよ。危うく味方に打ち落とされるとこだったぜ』

「知らん! さっさと部隊まとめて帰投しろ!
 フェアトラークと今すぐ回線を繋げ!このまま黙っていられるか!!」


静寂と戦闘の残骸が舞う漆黒の宙に、さらに黒く浮かびあがる旗艦フェアトラーク
レリクト、フェストを両翼に従え畏怖を纏うその姿は、漆黒の死鳥
配備されてまだ任務数も然程ないのにも関わらず、そう異名を付けられたのは冷酷で容赦のないその指揮ゆえだった


「隊長、ボルテールより通信が入ってます」

「・・・」

「繋いでください」

静かに瞳を閉じたままのシュヴァリエに代わり、シホが穏やかな声で応える

『ジュール隊隊長イザーク・ジュールだ。先ほどの行動について説明してもらおうか』

「ジュール隊長、お久しぶりです。えっと・・・任務地へ向かう途中、戦闘を確認しましたので僅かばかり援護させて頂きました」

『あれが援護だと言うのか!だいたい俺は、貴様に聴いているのだ!カノン・シュヴァリエ!』


「あ、はい・・・すいま・・・」

シホの苦しい笑顔の横で頬杖をつき依然瞳を閉じたままの態度に、イザークの怒りは更に高まる
シュヴァリエは"煩い"とばかりに大きくひとつため息を吐き、静かに口を開いた

「シホ、何故謝る?」

「あの、その・・・」

「ジュール隊長、こちらの主砲でジュール隊に被害でもおありか?それに味方の主砲に巻き込まれるような隊員をお持ちか?」

『それは・・・』


どちらも無かった

高エネルギーを確認し、咄嗟に撤退命令をくだした数分後にフェアトラークから主砲が発射された
それはジュール隊の撤退行動を見越したかのような絶妙なタイミング

「他に用がないなら、先を急ぐのでこれで失礼する」

文句言い足りないイザークを尻目に、シュヴァリエの指示が通信を介しボルテール ブリッジ内にも響く

『各艦に通達。予定通りの進路に修正。目標座標到着後、引力圏突入と同時にMS部隊投下。各艦は戦闘減速に変更。
貴方たちは特務シュヴァリエ隊に選ばれた精鋭、この任務は2時間で制圧完了できるはずです。心して任につくように。以上』

『『『はい!』』』



「あらら、また肩透しにあっちゃった?」

どこで回線を切っていいのか戸惑うオペレーターの肩をポンと叩き、緊張をほぐしつつフェアトラークとの回線を閉じさせる
どこか軽薄気味なディアッカの絶妙な対応がジュール隊を支えていると言っても過言ではなかった


「煩い!」

「まぁでも、あれじゃね?こっちの行動予測して撃つなんて、俺ら信頼されてるってことで」

「はぁ?どこをどう取ったら信頼なんて言葉出てくるんだ!」

「信頼してなきゃ 撃てないだろ?流石に同胞撃ち殺すなんてしないだろうしさ」

「それは、どうだかな・・・」

涼やかな髪の下の瞳は、かつて一度だけ見たことのある色に彩られていた



―――まずいな・・・ストライクの時と同じ目してるぜ





2010.02.13

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