Waxing Crescent

□kapital.10
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「えぇ、目は通しました。なかなか過激で素敵な案ですね。これまでの功績を一切考慮しない冷徹な制裁に、正直ゾクリとしました。

はい、私とその部下数名で早々に事に当たりましょう。あの者は外しますのでご心配のには及びません。全てこちらにお任せください。


はい、では ”ザフトの為に…”」


音声通信を切ると同時に、紙がクシャりと握りつぶされる音を立てた。
ザフトの正義に疑問を持たないイザークのキラキラと澄んだ水晶玉のような瞳に自身がの姿が映る。

同じ隊長服を纏えど、自身の白い隊長服は汚れて映る。
そういえば、初めてこれに袖を通した時にも同じことがあったような。
あの時は、確か鏡に映った真新しい隊長服は既に汚れて見え、鏡を割ってしまう程取り乱した。
今はもうそれすらどうでも良い事だが。



 *   *   *


 
他の隊の任務内容をこちらから聞く真似をするつもりはない。まして目の前の女は特務だ。尚更、聞いていい訳がない。しかし、平静を必死に保とうとするその背をイザークは黙って居られる程大人ではなかったし、抱きしめられてやれる程の度胸も無かった。が、声をかけることぐらいはできた。


「どうした?」

「……… 」

「べ、別に知りたいわけじゃないぞ!た、ただ…その…」


うわずる声に急に恥ずかしさを覚えイザークの耳はみるみると赤く染まった。


「知りたいのは任務内容か?それとも…」

「…っ!!」


唇が触れそうな距離。
イザークの毒気は抜くには十分すぎる距離。


「…っふ。クルクルと忙しなく表情を変える男だな。」

「うる……!!」


花びらが唇をかすめたようなキス。
それは、事故か?偶然か?
しかし、確かにシュヴァリエの甘く暖かい温もりを感じた。
目を見開き硬直するイザークを尻目にシュヴァリエは上衣を羽織り襟を正しながら、通信司令部に隊の者数名の緊急招集を淡々と要請した。

それと同時に、隊室の扉が開きシホが書類に目を通しつつ入室してきた。


「シュヴァリエ隊長、報告書をお持ち…?!ジュール隊長いらっしゃったんですか?!すいません…気づかず勝手に入室してしまって…あ、あの…」


イザークの姿に急に顔を赤く染めるシホ。
急なシホの入室に唇を手で覆い隠し平静を装うとするイザーク。

そんな二人の姿をシュヴァリエは鼻で笑いのけた。


「あぁ、ご苦労。申し訳ないが私は今から諸用で出掛ける。暇そうなジュール隊長に確認してもらい問題なければ提出しておいてくれ。あと艦の出航準備忙しておいてくれ。そうゆっくりしている暇はなさそうだからな。」

「は、はい」

「お、おい!!俺はお前の隊の事などわからんぞ!」

「シホに教わればいいではないか?それに、その報告書は先日のジュール隊との合同の件だからわかるだろう?」

「っ!副官に教わりながら、なぜこの俺がお前の隊の報告書処理しなきゃならんのだ!!」

「そうですよ、隊長。ジュール隊長に私がお教えすることなんて…」


シュヴァリエは面倒くさそうに髪を掻き揚げ、見下すように冷血な眼差しと声でイザークの胸ぐらを掴んだ・


「ならば一緒に無明の奈落の淵を歩むか?」


凍りついた空気に割って入ったのはシホだった。
イザークの胸ぐらを掴むシュヴァリエの腕を握り、俯きながら言葉を紡いだ。


「お辞めください。ジュール隊長は…特務では…ありません。巻き込むのは……」


シュヴァリエの腕を通して、シホが震えていることがイザークにも伝わった。
が、しかし、シュヴァリエはそれすら気に止めることもなく、吐き捨てるようにシホの腕を払いのけ、イザークを突き飛ばした。


「…っふ、驕るなよシホ。自分の決断を後悔し動けなくなる貴女とこの男は違う。貴女みたいな人間は大人しく初めから私の指示に従っていればよかったのだ。」


踵をかえし隊室をカツカツと後にしていくシュヴァリエを追いたかったが、シホがそれを許さなかった。


「ジュール隊長、追わないでください。お願いします。」


”無明の奈落”というわけのわからぬ淵でもアイツを追いたい…
だからと言って、目の前で涙を堪え必死に訴えるシホをこのまま捨ておくわけにもいかない…
それに、こうまで必死に止めるからには、その奈落の姿をすくならからずシホは知っている。知った上で、俺を止めているとしたら、それ相応の覚悟を俺も決めなければならないということか…



どうすればいいんだと言うんだ。





2013.1.21
2013.1.23 *一部修正*

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