ROUGE ET NOIR

□* kapital.02
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『・・・・・・クレープ』



ふと流れる車窓から飛び込んできたクレープ屋とその店先で、クレープを嬉しそうにほおばる少女が目に止まった
お腹が空いていた訳ではなかったけれど、あまりにも幸せそうなその笑顔に心引かれ、ぽつりと声がこぼれた



『お召し上がりになりたいのですか?』

『う・・・うん・・・・・・』



バックミラーから覗くアロイスの目には、恥ずかしげに頬を紅く染めるティエルの姿があった
アロイスは、何も言わずに静かに車を止め"しかたのないお嬢様ですね"と小さなため息と笑みを残して、クレープ屋に一人買いに行ってくれた
いくら執事とは言え、大の男がクレープを一人で買うのは恥ずかしいだろうに・・・と私は車内からその様子を伺ったが、当のアロイス本人は顔色ひとつ変えずに淡々とクレープ屋の主人に注文し、紙ナプキンと出来立ての優しい温かさを纏うクレープを手に戻ってきた



『これでよろしかったでしょうか?』



手渡されたクレープは、何とも言えない甘い香りを漂わせ、白くほんのり溶けかかった生クリームとそこから鮮やかな赤いイチゴがキラキラとちょこんと顔を覗かせている様に見ているだけで自然と笑みが漏れる
そっと一口かぶりつくと、溢れそうな生クリームが口いっぱいに広がり、甘酸っぱいイチゴがあとから追いかけてくる。絶妙な味のバランスに瞳を閉じると、なぜか不思議な光景が脳裏に甦える
一口、また一口と噛じるほどに鮮やかに蘇る記憶をゆっくりとその身に取り戻した



『ねぇ、アロイス、執事の真似楽しい?』

『・・・』

『何この子供騙しの茶番・・・。まぁっなんでもいいや。』



形の良いぷっくりとした唇を舌先でぺろりと舐めつつ、白いホイップを細くしなやかな指ですくい上げ、赤く滴るイチゴの様に何かを重ねて楽しんむ姿は、狂気と呼ぶには生易しい禍々しく残忍と言ってしまうには易々たる物々しい
ころんっと頭を大きく傾け悪戯な眼差しを私に向ける瞳には、開発者たる私の姿と無垢な狂気が燦然と輝いていた

武器とは違い、天真爛漫でどこかあどけなく、可愛らしい仕草さえ見せるからこそ、その秘めたる狂気が輝き際立って感じるのかもしれない


幾千の命を救う事よりも 一つの命を奪う事に
弱き者を守る事よりも 強き者と戦う事に
そして、操者の望みを叶える事だけにその力を振るう



『君って子はまったく・・・』



正直、手放すのが惜しい
出来る事なら、私が君の操者となり、未来永劫 君をこの手にしていたかった
しかし、より完璧なモノとする為には、これもまた仕方の無いこと








静かに車を走らせると、まもなくして軍本部に到着した
整備員が補給やら何やらと殺気立つ程に慌しく追われている中に、一際色香を漂わせ艶やかに凛とした立ち姿で操者たるラウ・ル・クルーゼは居た

クルーゼは、ティエルの姿を確認するや否や、闇を引き連れ歩み寄る
闇そのものが迫ってきた気さえする
そして、その闇に引きずり込むように、手が差し伸べられた

ティエルは、艶やかな色香に気圧されながらも、必死に与えられた情報と、目の前の男の顔をつなぎ合わせる



『綺麗・・・白くてキラキラして・・・・・・まるで月も星もない闇の中にひらひら舞う雪みたい・・・』



思わずティエルから毀れた言葉にアロイスも、クルーゼ自身も耳を疑った
恍惚な光を宿し歪んだ笑みを浮かべるクルーゼの白い姿だけが、澄んだティエルの瞳に映し出されていた
確かにそれは、暗闇に舞う白い雪のようだ


『決めた!貴方に』

『おやおや、これはこれは・・・』

『私は貴方の望みを叶える、貴方が欲しいものを与えてあげたい、本当に貴方の望みを・・・』


クルーゼは強引にティエルの腰に手を回しその身を引き寄せ、甘い香りに引き寄せられるかのように形の良い唇を奪った
気が狂うほどに激しく、甘く――――











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ラウ 
どうも、やはり運命は君の味方のようだ
君を操者として選ぶように私は、ティエルを操作して居ないにも関わらず、ちゃんと彼女は君を操者として選んだのだから
無論、君を優位にする情報は与えてあるがね
キラ・ヤマトらが人の心を力とするなら、ラウ、君は憎悪を力とするのだろう?
キラ・ヤマトと同じ人工子宮より生み出されたティエルは、彼の兄妹、いや対
相反するものとして、君たちは似ているな

無明の闇に咲く憎悪の華を激しく舞い散らす風となれ、ティエル



By アロイス・クロード

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