ROUGE ET NOIR
□* kapital.03
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『期待していいのかね?可愛い姫君』
『貴方がいい!白くて綺麗だし』
屈託ない明るい返事と笑顔が私の胸に深く突き刺さる。その声は鳴り止まぬ歓声に似ていた
(いいだろう…
では、君に私の望みを託してみよう
そして君は未来永劫、私のモノ
その命すらも)
『では、私は世界中の愛を掻き集めようとも、私はその上をいく愛を世界の珠玉たる君に捧げよう』
『ん?愛??』
『ティエル、私は君の専用機が出来次第、合流しますから…。それまでは、くれぐれもクルーゼ隊長の指示に従って、無茶をしないようにしてくださいね。』
ティエルは私の首に絡ませていた腕をさっとほどきその身を翻す。主を替えた仔猫のように、今度はアロイスに擦り寄り寂しげな視線を投げかける
『えー、一緒じゃないのぉ〜?』
『アレの調整があるからね。』
『じゃ、完成したらすぐに来てね!』
『あぁ、もちろん』
何故だかその様子に私は嫉妬した
ティエルの頭をくしゃりと撫でる手を掴み、無言の威嚇にアロイスは、ふっ と鼻で笑って見せた
『おやおや、嫉妬ですか?
ラウ・ル・クルーゼともあろう方が、らしくないですね。いや、逆に君らしいと言うべきですかね』
身体を優しく引き寄せられながら、頭上でぶつかる視線にティエルはきょとんと目を丸くする
『嫉妬って?』
聞き慣れない言葉の意味を二人の男に問うが答えが帰って来る事はなかった
あるのはまったくタイプの異なる男が、同じ不敵な笑みを口元に浮かべている事実のみだった
『クルーゼ隊長、シグーの最終確認お願いします』
『あぁ、わかった…いや、待て。』
手に入れたての珠玉に視線を落とし、MSリストに目をやる
『ティエル、君は機体が来るまで私のシグーに乗るといい。調整の時間はまだある。君の乗りやすいようにセッティングし直してくれてかまわんよ』
『本当に?ありがとう!クルーゼ隊長』
突然の指示に整備士は驚きを隠せず、反論しようと口を開けるが、相手がクルーゼであるがゆえに言葉を飲み込むしかなかった
『君に隊長と呼ばれるのは、些か不満だな。私にとって君は大切な姫君だ。他の隊員たちとは違う。だから、そう…隊長ではなく、名前で呼んでくれると嬉しいんだかね?』
『わかった!ラウ』
『いい子だ、ティエル さぁ、調整しておいで』
とりあえずの爪を得た嬉々とした鷹の後ろ姿に、二人の男は目を細める
『この段階でまさか彼女を投入してくるとは、正直驚いたよ。それにあの出来、アロイス、君は大したものだな』
『それだけ、上も必死なんだろう。計画より早めの覚醒だが問題はないはずだ。性能もれいの彼に劣らない仕上がりだ』
『人の業、ここに極まれりといったところだな』
『一つ、私からの忠告だ。くれぐれも彼女に深入りし過ぎるなよ。彼女は人としての心を持たぬからな』
『ふ…心なら私も持たぬさ』
『どうだかな…』
この世界には最初から真実も嘘も無い。 あるのはただ厳然たる事実のみ
世界の大半を占める力無きものにとって自らを肯定するに不都合な“事実”
そしてここにまた新たな事実が刻まれた