ROUGE ET NOIR

□* kapital.07
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豪華なディナーに、喜びに満ちた空気と微かなアルコールの芳香が2人を包む


『そろそろ雨の時間だな』


静かなクルーゼの声に従うように、雨がポツリポツリと2人を乗せたエレカを濡らし始める。フロントガラスは、始めこそ水玉模様のように弾いていたが、すぐにアメーバのように張り付き、視界を滲ませた


『そういえば、"愛""嫉妬"が何かと、昼間聞いていたね』

『あー、そうだっけ…?』


エレカは高級そうなホテルに着くと、ドアマンが礼儀正しくティエルの乗る席のドアを開け、クルーゼにお辞儀をし、キーを受け取った。
ティエルはクルーゼにエスコートされるままに、これまた夜景が見事な一室に入った


『うぁー、キレイ!』


窓に張り付き、子供のようにはしゃぐ仕草にクルーゼは、暫し、目を細め眺めて居た
クルーゼはようやく口を開いた。その姿勢は今までと少しも変わってはいなかったが、目を伏せるようにしたままで、口調だけは急に毅然と、不思議なくらい一言一言を甘く囁く


『この命も魂も捧げよう、君がこの世界に終焉をもたらしてくれるのなら…』


窓に張り付いたままのティエルを後ろから優しく包み込みながら、甘い囁きを続ける


『君は知らないし覚えていないだろうが、私はずっと君を求めてきたのだよ。あの日、メンデルで人口子宮槽で眠る君に出会った時から。』

『メンデル?』

『そう、禁断の聖域。神を気取った者達の夢の跡。私が生まれた場所でもあり、君たちが生まれた場所だ。君も知りたいだろ?人の飽くなき欲望の果て。進歩の名の下に凶器の夢を売った愚か者達の話を。
知れば誰もが望むだろう、君たちのようになりたいと。君たちのようで在りたいと。故に許されない。君たちという存在を…。だが、なぜかな?君にこうして触れていると、こんな私でさえ夢みたくなるな。』

『ラウ?』

『いや、あの日からずっと私は君を夢見てきたのかもしれない。君に成れずとも、君を手にする事を、ね。出会ったあの日、君の美しさに目を奪われた。研究者たちはこう私に教えてくれたんだ。"この2人は、一対。光と闇のようなもの"とね。私は君が闇であるよう、どれだけ願ったか。』

『どうして、闇がよかったの?』

『私が闇の存在だからだ。私は出来損ないのクローンなのだよ。だから、私は人を憎み、この世界を裁く。』


クルーゼは自らを曝け出すように、仮面と手袋を脱ぎ捨て、


『だからこそ、私は君を愛する。悪魔こそ私の求めるものだからな。
そう、ティエル、君を愛していいのは私だけだ。』


顎に手をかけ、クイッと上を向かせると唇に柔らかな感触が落とされる。ティエルは何をされているかわからず、大きなひとみを更に大きく見開く


『私を愛している…と言ってごらん』


熱く絡み合う視線に、ティエルは愛の意味すら、まだわからなかったが、身も心もクルーゼに捧げるように従う


『愛しているわ、ラウ』

『良い子だ』


薄紅色の濡れた唇を親指で撫でながら、クルーゼは顎から耳へ、輪郭をなぞるように、静かに唇を這わす


『ご褒美をあげよう』


耳を這う舌と、唇から滑り込む指に、ティエルの身体は敏感に反応した

(これは…心は人でなくともやはり身体は女というわけか……随分と罪深く作ったものだな。しかも、本人はどれだけ自分が男を煽っているかわからぬから、余計だな…)

ベッドへ身体を引き倒すと、ティエルは反射的に首筋にすがって来た


『ラウ…苦しいの?とっても脈が早いよ』


なにも答えず、首筋に口付けを何度も落しながら、クルーゼの指先が、ティエルの指に絡む


『今にわかる』


ゆっくりと唇が塞がられ、ティエルの瞳は濡れ、頬は紅く染る
その様子にクルーゼは、ふっと満足気に笑みが浮かんだ

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