ROUGE ET NOIR
□* kapital.10
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誰かが入室した気がして、イザークは身体を起こした。ロックしていたはずの扉は、口を開けティエルを迎え入れていた。
『勝手に入るな!』
ティエルは、声の方に顔を向けると、相変わらず不機嫌そうなイザークがいた
『いーつも、君は不機嫌だね』
『うるさい!貴様を見ると胸くそ悪くなるんだ!!』
怒り心頭の声で言い放つイザークに、
『なんで?』
とティエルが笑いながら問う。イザークは、更に苛立ちながら、一度息を大きく吸い込み、拳を握ると、今度は息を大きく吐きながら、ティエルを壁に押し付け、両の腕を縫い付けた。力の限りに押さえつける男の力に痛みをティエルは覚えたが、何故だか怖くなかった。それどころか、鼻が触りそうな程、近くにあるイザークの顔を見ながら
『君、私が怖いんだ。』
眼光鋭くイザークを射抜く、ティエルに言葉が出なかった
『友達を落とされちゃいそうだから?』
『アスランは、そこら辺の奴らとは違う。貴様などに撃たれるほど間抜けではない!』
『へぇー、それは楽しみ♪アレの他にも強い子いるなんて、早く戦いたいね〜』
『貴様、遊びじゃないんだぞ!それに、昨日今日来た訳分からん貴様に何が出来る!!』
『やだなぁ〜、何ムキになちゃってるの〜?相手の強さ信じてるなんて変なのー。』
イザークの苛立ちをわざと駆り立てるように、ティエルは笑う
『アレも、アスランも俺が撃つ!貴様になど撃たせてたまるか!!』
『今まで散々、落とせなかったのに?』
『っ!!』
『じゃぁさ、私と模擬してみない?で、勝ったほうが殺る。お互い邪魔されるの嫌でしょ?』
無言の答えのように、壁に縫い付けられていたティエルが自由を得た
最後のひと匙を盛ったティエルは、不敵な笑みを浮かべイザークの部屋を出ていった
『おい、何処へ行く?』
イザークは呼び止めた。
『シュミレーター室。っあ、模擬弾で実践方式のが良かった?』
振り返ったティエルは、形の良い頭をコロンと傾げて見せた。
イザークは、実践方式のが良かったが、スピリットブレイクが近い今、"機体を無駄に使うのは避けた方が良い"と言うティエルの意見に、そこだけは素直に賛同した。
イザークは、何か普通に言葉を交わしたいと想うのだが、結局口から出て来るのは、『言われなくてもわかっている!』というものだった。
こくんと頷き、ティエルは前を行く。
後を追いながら、イザークはふと思い出す。
あんな間近で、射抜くような眼差しを逸らす事なく、気然としていたティエル。普通の女なら少なからず怖がるはずだ。なのに、やつにはどこか余裕すら感じられた。何故だ…
シュミレーター室に着くと、既に間近に迫った任務に向けて鍛錬する者たちでいっぱいだった
ティエル は、それでもお構い無しに
『ちょっと退いて、君も』
ティエルは、日頃の噂や態度のせいもあり、その声に相手は見向きもしなかった。
『そこを退け!きこえているんだろ!!』
流石にイザークの喝には、たじろぎ いそいそと席を譲った
直ぐに決着はつくだろうと思ったが、ティエルも一応赤を着るものだと気を張り直した。
シュミレーター室は、イザークとティエルの手合わせに色めきだった。そして、その色めきはあっという間に艦内を駆け巡り、アデス、クルーゼの耳にまで達した
『ティエルには、困ったものだ、またイザークを煽ったな…。アデス、彼女の力を見せるいい機会だ、館内のモニターに様子を流せ。』
真の任務に根回しする手を休め、モニターに映る2機を眺めた
『負けたら邪魔はなし』
『ふん!くどいぞ!!貴様こそ、負けても隊長に泣きつくなよ?』
女を馬鹿にするつもりはないが、こいつに負ける気は、これっぽっちもなかった
そして、シュミレーションは本人はおろか見学者の全員が目を疑うくらい熾烈な戦いを見せた