short story

□狂わされた恋
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白服に昇格した彼女の人気は、飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
さながら、ザフトのアイドル。
だが、俺は関わる事が無かったせいか、興味の欠片も持ち合わせていなかった。
少なくとも、この時までは。


『ジュール隊長』

『今は忙しい』

『…式典の後の晩餐会、よろしければ…その…』

『俺は生憎忙しい。』

『そうですよね…失礼しました。』


声を掛けられたが、俺は議会から渡された新たな任務資料に夢中で、気にも留めなかった。
が、これがこの後すぐに訪れる後悔の始まりだったとはつゆ知らず。


『姫君、今夜の晩餐会出席するだろう?』

『あ、うん。そのつもりだったんだけど…』

『だけど…、どうかしたんですか?』

『同伴の相手、決まってないなら俺が相手になるぜ?』


"決まってないなら…"の言葉に周囲は一気に注目した


『じゃ、ディアッカにお願いしようかな…』

『待ってください、僕にエスコートさせてください。』


珍しくニコルが積極的に割って入った。
が、姫君の相手が決まっていない事実に、あっという間に男たちが群がり、ちょっとした告白タイムになっていた。

俺は騒々しさに苛立ち、書類から目を離し、その元凶に目を移せば、戸惑う彼女と目があった。

"トクン"

一目惚れだった
何にって訳じゃない
その全てに惚れた
初めて会った訳ではないのに
その時、目があった瞬間、恋に落ちた

そして、次の瞬間、俺は叫んでいた


『離れろ、そいつは俺の相手だ!』


周囲は凍りつき、机を叩く音とその振動で書類がかさつく音だけが響く


『ぇ?』


彼女の瞳に困惑の色が浮かぶ
これまでこいつを知らなかった事、
先程 相手にしなかった事、
そして、今 こんなにも困惑させている事、
全ての後悔を払拭したいが為、真っ直ぐ熱い視線を送る。


『お前、忙しいって…』

『ディアッカ、貴様がこれを処理しておけ。出撃の輸送準備ぐらいできるだろう』

『お、おい、そりゃないぜー』

『隊長命令だ!やれ!!貴様らも隊長格にその態度はなんだ!弛んでいるぞ!!!』

『隊長格ってイザーク、ここは前線でもないし、ザフトはそう言うのじゃないだろ…』

『俺に意見するな!今の俺は隊長だ。アスラン』

『イザーク、突然、どうしちゃったんですか?』


姫君への同伴申し込みよりも、今この場はイザークの変貌ぶりに注目が集まった。


『兎に角、あれだ…今後のこいつの相手は俺だ!意義のあるやつは、何時でも来い!!わかったな!!!』


姫君本人はもちろん、取り巻く男共や、アスランまでもが呆気に取られた。


『イザーク、ま、まさか今の愛の告白?』

『僕にも、告白に聞こえました』

『告白だろ…』

『文句あるのか?』


周囲も本人も、呆気にとられたままだ。
大勢の前で恥ずかしげもなく、自分の女宣言。
イザークらしいと言えば、らしかった。


『わかったなら、行くぞ。』

『ぇ?あ、はい…?!』


目を白黒させながら、イザークに腕を掴まれ後を追う。
が、突如、足を止めたイザークの背にぶつかった。


『ッ痛!』

『すまない。ディアッカ、仕事やっとけよ!いいな?』


釘を打つと、執務室まで振り向く事なく姫君を引き連れ、カツカツと歩んだ。

掴んだ腕からトクントクンと姫君の鼓動が伝わる度にイザークの理性は薄れ、今にも箍が外れてしまいそうだった。

(俺はいったいどうしてしまったんだ?)

自問自答しても、答えは出ない。

執務室に入るなり、ロックを掛け姫君に真っ直ぐ向かい合う。


『お前が好きだ。』

『ぇ…?』

『理由ならない。さっきも言ったように俺のものになってくれ』

『あ、あの…』


急展開に姫君がついて来れていないのは、わかったが、俺にはこういうやり方しか出来ない。


『お前は俺が嫌いか?』

『い、いえ…そ…その…』

『はっきり言え!!好きか嫌いか!』

『あ、はい。好きです』

『なら、今からお前は俺のものだ。晩餐会も俺から離れるな。いいな』

『はい』


強引で俺様な遣り口だが、姫君のうつむきながら見える頬の赤らみや、笑みに幸せを感じた。




・・・溺れろよ、俺に

もっと、もっとだ

俺はお前に狂わされた

だから、俺はお前を狂わす






詩@Pure Gothic
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