Wise Person Story

□3:争いの過去
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◇エアロ 〜とある森にて〜

「ひ、ひ、ひひ、ひとく、ひ、ひとくい…人喰い!?」
現在絶賛テンパり中のエアロの目の前に少年は、真っ赤な林檎を差し出した。
「落ち着いてよ、他の森の生き物が来…」
少年が言い終わる前に、エアロが林檎にかぶりついていた。
「………。」
「…あ、ゴメンなさい!お腹減ってて…」
「野獣?」
「違っヒドッ!てか、あなた誰?」
「セナ」
…短すぎる自己紹介。
「…うん、あ、あたしはエアロっていうの。よろし…」
「で?」
「え?」
言葉をさえぎられた上に、思ってもいなかった返答にエアロがひるむ。
「名前聞いてどうするの?」
「え!?」
改めて聞かれると意外と返答に困る質問だ。
「えっと…普通、初めて会った人に名前って聞かない?」
「別に…人なんて…いないし。」
セナが切なそうな顔をした。
「え?人がいないって…どこに住んでるの?」
「ここ」
「ここって…森?」
コクリとうなずいた。
「で、でも…ここって人喰い蟻地獄とか、そんなのがいるんだしょ?」
もう一度うなずいた。
「他にも吸血コウモリ、巨大毛むs…」「やめて!!!!」
エアロは虫が大の苦手で、虫を持って近づこうものなら子供であろうと老人であろうと容赦なくビンタをかます。まれに『冷酷』が出てきてしまうことがあるため大変危険だある。
「何なの!?この森!!」
「突然変異」
「なんで!!」
エアロは若干キレ気味である。
「森のバランスを保っていた植物の部族が消えたから」
植物の部族が消えた…エアロの心に刺さる言葉だった。
メアトルの水の部族はエアロの他は誰もいない。父も母も水の部族だったので、ゼアルにも力があってもおかしくないのだが、何故か力が現れることはなかった。
「消えたって?」
「殺された」
…え?
「殺され…ひゃっ!」
セナに近づこうとエアロが一歩踏み出した瞬間
   蟻地獄があった
「い、いやぁぁぁあああああ!!!」
滑り落ちていく
「!? つかまって!」
セナの手から蔓がのびた。
エアロはなんとかそれにつかまり、セナが引っ張りあげた。

「ハァ…ハァ…あ、ありがとう…」
「どうってことないから…」
両者ともに息切れしている。
「あ、あんなに…大きいなんて…」
エアロは恐怖とおぞましさに身を震わせた。
「だから…最初に言ったんだ」
「…ゴメン」
「森の出口まで送ってく」
そう言ってエアロを木の上に乗せて、ゆっくりと移動していく。
「ねぇ、どうせだから一緒に旅しない?」
唐突な提案にセナが怪訝そうな顔をエアロに向けた。
「…なんで」
「こんなところにいたら体によくないじゃん」
   天然発動
「それに植物の部族でしょ?一緒にいてくれた方が心強いし。あたし水の部族なんだ」
「水…」
セナの足が止まった。
「昔聞いた。火、水、植物、風、雷、闇、あとなにがあったか忘れたけど、その全ての部族に伝わる秘宝があるって」
「秘宝?」
「それ」
セナがエアロのブレスレットを指した。
「これ…お兄ちゃんがくれた…」
それを聞いたセナは切ないような表情を浮かべた。
「…家族…いるんだ」
「セナは…」
「言っただろ、死んだ」
悲しい目だった。
「…あたしも、両親亡くしてるから、少しだけ気持ち分かる…カモ」
「っ!」
セナの顔つきが変わった。それは憎しみに満ちた顔だった。
「分かるわけないだろ!僕の気持ちなんて!どうせ君の両親なんて病気とかそんなもんだろ!亡骸だってきれいな形で…人の形を保って残ったんだろ?!」
「え?」
「父さんや母さん、村の人達みんな、僕の目の前で!触った瞬間手が真っ赤に染まるような状態で!一目見ただけじゃ誰かわかんないような姿になったんだよ!僕は父さんが隠したから助かった…僕は村のみんなが守ってくれた!そのみんなが殺された!僕の命は…この身体は、沢山の犠牲の果ての残骸なんだよ!!そんな僕の気持ちを、君は分かるっていうのかよ!!」
セナは怒り任せにエアロを怒鳴った。
半分自分を戒めるように
そしてエアロは、
「そんな…そんなの…分かるわけないじゃない!」
「!!」
力任せに怒鳴り返した。半分は自分の無神経な行動に対して。もう半分は…逆ギレで。


◇エドモント 〜後宮の廊下にて〜

   君達も知っているかな。昔あった「賢者戦争」  
そう今も起ころうとしている戦争だよ。
本当に悲しい戦争だったよ。だって街に入った瞬間…殺されるんだ。
だから街には、足の踏み場もないくらい死体が転がっていて、戦争にカンケーのない人まで巻き込まれた。
そして何を言っても多く死んでいったのは偉大なる「賢者」達だ…。
彼らは国の兵器だった。あの頃は、どの国も武器を持たず攻撃ができるとしたら、魔法を使える人、または賢者…それしかいなかった。
だから、今民族の少ないところあるだろ?そこは昔賢者が多かった国なんだぜ。
ほんとかわいそうだよ。
え?あぁ、俺?俺の名前は「ターナー・エドモント」
別名「語り屋」もしくは「きっかけを作った男」かな
家族?いるよ、弟がね。弟は後宮で「マリウス皇帝」の執事やってんだ。
名前は「ビル・エドモント」って言って、本当自慢の弟だよ。
おっと、話がとんだね。え〜と、どこまで話したっけ。
あぁ、そうだ。
なんでこの戦争が始まったかというとね、きっかけは俺なんだよ。
俺がビルに教えちゃいけないことを教えたんだ。
それを聞きたいかい?それじゃ、特別料金貰わなくっちゃねぇ。この話は結構ヤバイからね。
な〜んだ、やめちゃうの。また今度おいでよ。また、面白い話聞かせてやるからさ。
まぁ、次に廻り会えたらだけどね。


◇エドモント 〜後宮の廊下にて〜

   数時間後
「さて、時間も時間ですし、坊ちゃんにアフタヌーンティーを出さなくては…」
その時、ぞくりと悪寒が走った。
いたずら的なものではない、誰かが殺されるような予感がしていた。
「まさか!坊ちゃん!」
バアン!!
いきおいよく扉が開いた。
「どうした?エドモント、そんなに慌てて。可愛がっていた猫でもいなくなったのか?」
「いえ、別に。ちょっと心配になって」
「何にだ?」
「坊ちゃんがしっかり勉強なさっているかどうか。また脱走されましては困りますからね」クス
「お前は、つくづく最悪で最も出来の良い奴だ」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
「お前は皮肉も褒め言葉になるのか。あぁ、それよりエドモント、お前に客人だぞ。また、お前の追っかけの女か?」
まさか。と言おうとした時、本日二度目、いきおいよく扉が開いた。そして、エドモントの顔面に直撃した。
その扉を開けた人物はエドモントのよく知る人物だった。
「よう!ビル、久しぶりだなー。っと、これはこれは、お初にお目にかかりますマリウス皇帝。私は『ターナー・エドモント』です。今後もお見知りおきを。」
マリウスは、何が起こったのか分からないというような顔をしていた。その一方、エドモントはよほどぶつけた時のダメージが大きかったらしく、ずっと鼻を押さえている。
「エ、エドモント。コイツは誰だ?そしてお前とはどういう関係だ?答えろ!」
エドモントは鼻をさすりながら答えた。
「この人は『ターナー・エドモント』、私の兄です。
で、兄さん今日は何の用?」
「今日はね、今起ころうとしている戦争で、どのコマを使うのかを見るために来たんだ。」
と言って、ターナーは笑みを浮かべた。
それは、まるでゲームを楽しむ子供のように笑っていた。
だが、とても残酷な笑顔だった。
マリウスはターナーに興味を持った。
そして…
「いいだろう、見せてやる。コマをな。しかし誰にも言うな、私とお前とエドモントしか知らないことにしてくれ」
「了解しました」
砂時計の砂が落ちるまで、戦争の始まりを予告しているように、サラサラ、サラサラと…。
「私はビルよりも信頼できる男ですから、これからは…」
「いえ、兄さんは必要な時しか呼びませんから」
これから起こることを、この人達は気付いているのだろうか。


 ◇??? 〜???〜

君も知っているか?あの恐ろしい戦いの事を。
私も賢者として招集をかけられたが、私の兄が代わりに行くと言って…。眠り薬を盛られている間に行ってしまったよ…。
え?兄はどうなったかって?
死んでしまったよ。戦争の初日に。
帰ってきたのは、赤く染まったネクタイだけだった。
その当時は何で死んだのかと世界を恨んだが、今はとても感謝している。
家族もいるしね。
優しい妻と、一人息子と可愛い娘。
下の子はまだ五歳になったばかりだ。
兄は独り身だったから、恋人がいた私を気遣ってくれたのだろうか。
でも…心配な事が一つある。
上の息子はよかったのだが、下の娘が私とサラの水の魔力を受け継いでしまったのだ。
この前バケツの水を勢いをつけて浮かせた時は思いきり腰を抜かしてしまった。
水の部族の最後の純血の生き残りなのだよ、私の子供達は。
あぁ、誰か来てしまった。こんな森深くに何の用だろう。
まぁ、私も旅をしていて、この森に迷い込んだのだが…。
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