御月山の夏

□御月山の夏
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 県境に位置する御月山地区のゴミ捨て場に死体が遺棄された。
 今から約十年前の、雨が降る蒸し暑い夜のことだった。

 無理やり黒いごみ袋に押し込められた死体は、全身にわたって挫傷や切創が刻まれ、特に後頭部の損壊は甚大で原型を留めていなかった。

 警察は被害者は強い恨みを持つ複数の人物から集団暴行を受け死亡したとみて捜査を開始した。

 捜査は順調に進み、現場を目撃していた住民の証言により主犯格である犯人を特定。事件は解決したも同然だった。

 しかしそんな中、事件は思いもよらぬ方向へと転んだ。
 情報提供をした住民が『ここはおかしい。もう誰も信用できない』という遺書を書き残し自殺。
 犯人の名前が挙がっていたにも関わらず、警察は気味が悪いほど素早く事件から手を引いた。

 突然捜査を打ち切ってからの数か月間、警察はマスコミ各社からのバッシングの的となったが、どれだけ世間から叩かれても捜査を再開することはなかった。
 やがて辺境の集落で起こった凄惨な事件の事など人々の記憶から消え、連日のようにワイドショーを騒がせた警察へのバッシングも止んだ。

 事件から約十年経った今もまだ犯人は逮捕されていない。



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