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□いいんだよ
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...何が分かる。テメェに俺の何が分かるってんだ!!
右目、あまり騒がないほうがいい。独眼竜に気付かれてしまうよ。私としてはそれでも構わないが卿は困るだろ。そのような顔は主君には見せられないだろう。いや、見られたくないというほうが正しいか。
「それにしても、卿にしては珍しいね」
あのように感情を露にするとは、私も驚いてしまったよ。
常の卿ならば怒りを覚えこそすれ感情を表に出そうとはしないはずだ。そんなに私の言葉が我慢ならなかったのかい。それとも、なにか思い当たる節があったのかな?
「そっ、そんなもん...ねぇよ」
テメェの戯れ言があまりに鬱陶しかった。ただ...それだけだ。
「俺は...テメェに心配されるほどヤワじゃねぇんだ」
「右目......」
卿はどうしてそうなんだ。今の卿の顔を見れば嘘を吐かれている事ぐらい分かる。そんなに私に弱いところを見せたくないのか。そんなに卿の周りの者は頼りにならないか。
卿は...卿はどうして誰かに助けを求めようとしないんだ。
「そんなもん...出来るわけないだろ」
俺は政宗様の右目であり、竜の第七の刃であり、伊達軍の副将なんだ。
伊達軍の為この身を捧げると主君に誓った俺が...弱いところを見せるわけにはいかねぇだろ。
「俺は...強くあらなきゃならねぇ」
例えこの身が悲鳴をあげていようとも、俺は誰かに助けを求めちゃならねぇんだ。
「右目...もういいんだ」
私は力任せに右目の身体を引き寄せた。抵抗されると思ったが右目は大人しく私の腕のなかに収まっていた。
なぜこのような行動にでたのか私自身よく分からなかった。それでも...あのような顔をした右目を放ってはおけなかった。
「辛かったろう、」
「離せ...」
「苦しかったろう、」
「離せよ...」
「もういいんだ、右目」
卿はもう...一人で傷付かなくていいんだよ。
「何だってんだ...テメェは......」
私に身体を預けるかのように力を抜いた右目は緊張の糸が切れたのか嗚咽を漏らし始めた。肩が少しずつ濡れていくのを感じつつ、私は右目が泣き止むまで黙って身体を抱きしめていた。