Cuore Luna

□第一章 信頼のスピリア
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南ペンデローク港に停まる一隻の船。
その船縁で海を眺めながら、タンジェリーナはこの船の船長と出港の時を待っていた。
快晴で、波も穏やか。
航行日和だ、とタンジェリーナは思った。
そこへ、

「おーい、リーナ!」

呼ばれて、タンジェリーナは振り返る。

「サンゴさん、新しい仕事ですか?」
「ああ」

黒髪をなびかせた褐色の肌の女性――サンゴは、微かに緊張の含んだ難しそうな表情で頷いた。
サンゴはこの船の船長であり、タンジェリーナの仕事の際に時々協力し合う友人だ。
一流船乗りで豪快な性格――本人いわく乗客を二、三人落としても気にしない広いスぴリアを持っている――であるサンゴにしては珍しい表情だと思いながら、あえてそれを口にせずにタンジェリーナは首を傾げる。

「この前話したソーマ使いの一団のこと、覚えてるだろ?」
「はい」

『ソーマ使いの一団』というのは、スピルーンを失った少女――コハク・ハーツを連れた一行のことだ。
ソーマは民間にあまり出回るものではない――数年前に、バレイア教会によるソーマ狩りがあった――から、ソーマ使いの一団と言えば彼女たちに限定されるのである。
タンジェリーナは海陸問わず各地を仕事で回っていたのだが、彼女たちに出会ったことはなかった。

「さっきアタイらは、北マーキス港であいつらを拾ってきたんだよね。で、ここに戻ってきたんだけど…その後あいつら、アタイの親父と話しつけて、アタイらの新オーナーになったのさ」
「え、どうして?」

タンジェリーナはあくまでフリーの荷の護衛人なので、サンゴが誰に付こうとあまり関係はないのだが、それでも思わず訊いてしまった。
ちなみに、今サンゴと一緒にいるのは、仕事がないためである。

「なんでも、リグナトル駐屯地に入る方法が欲しいらしくて……おっ?」

不意に、サンゴは船着き場に目をやった。

「来たね。あいつらだよ、リーナ」
「?」

サンゴが指差した先、船着き場を見ると、ソーマを携えた七人がいた。
しかし、件のコハクという少女が見受けられなかった。
船着き場では、仕事の関係でタンジェリーナとも知り合いである運び屋『日々寧日』の女性社長――イネス・ローレンツが、エカイユと話しているのが見える。
エカイユは、サンゴの父であり海運王であるチェンの美人秘書だ。
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