Cuore Luna

□第五章 戦友
1ページ/7ページ

階段を登った先は、教主の執務室だった。幸い、そこには誰もいなかった。

「ふう……やっと出られましたね」
「地下を走り回って、ネズミにでもなった気分だぜ」

タンジェリーナに続いて、ヒスイが呟く。
ペリドットは既に、執務室を出ようと扉の前に立っていた。

「隊長とバイロクスは、前にシングが幽閉された部屋にいるはずだよ! さあ、ほら! 急ごう!」
「気持ちは分かるけどさぁ。ハリキリ過ぎなんだよ」

魔物が出没する、不気味で湿度の高い地下水道を歩き回って精神的に疲れてしまったのだろう、ベリルがだるそうに言う。

「隊長の命がかかってるんだ。当たり前だろ!」
「……そっか。ペリドットは、カルセドニーが好きなんだな」

シングが穏やかに言った。
それを聞いたベリルが、得心したようにニイッと笑う。

「あ〜、そっかそっか。なるほどねぇ。ぐふふ〜、でも案外バイロクスの方だったりして?」
「バ、バカ、そんなんじゃないよ!」

ペリドットは顔を真っ赤にして否定し、それから俯きがちにしんみりと言った。

「バイロクスと隊長は、あたしの……兄貴と弟に似てるんだ」
「え……兄貴と弟? あんたはプランスールの孤児院出身でしょ?」

ベリルの指摘に、ペリドットは緩くかぶりを振る。

「あたしだって、生まれた時からひとりぼっちだったわけじゃないさ。小さい頃に親が死んで、最初は兄貴と弟と3人で暮らしてたんだ」

ペリドットは、どこか無理しているような、彼女らしからぬ笑顔を浮かべて続けた。

「もちろん、弟は隊長よりずっと可愛かったし、兄貴はバイロクスより男前だったけどね。けどさ……マジメで不器用で、あたしに小言ばかり言うところは……ふたりにそっくりなんだ」
「でも、『いた』ってことは……」

コハクのその問いには答えず、ペリドットは振り払うように毅然とした表情で言った。

「だから、あたしはふたりをなくすわけにはいかないんだよ!」
「そうですね。家族を失うのは……辛いですから」

タンジェリーナは俯きがちに、苦しげな表情でそう呟いた。
ガラドだけはそれに気付いたが、何も言わなかった。
シングは頷いて、張り切って声を上げた。

「よし、行こう! ふたりを助け出しに!」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ