Cuore Luna
□第六章 雷鳴山の悲劇 前編
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数時間の航海の後、一行は北マーキス港に到着した。
港や、その先に見える街道には雪が降り積もっている。ペンデロークやオールドマイン大陸は温暖な気候なので、シングやカルセドニー隊にとっては珍しい風景だった。
しかし、どこか淋しい印象を受けるのは――他の港と違い、人の行き来が少なく、活気があまりないためだろう。
タンジェリーナが渡しておいた薬で船酔いをせずに済んだベリルが、船を降りながら機嫌良さそうに言った。
「コハクたちって、この辺の生まれなんだ。ボクの村もこの近くなんだよ。しばらくぶりだなぁ」
「いや、俺たちの村はまだ随分先だ」
ヒスイの言葉にべリルは一瞬、「ああ〜」と頷きかけ、動きが停止した。そして、恐る恐る呟く。明らかに、その顔色は悪い。
「え……? ってことはさ……」
「南東の『雷鳴山』を越える」
ヒスイのその即答に、ベリルが驚愕して大声を上げた。
「この時期にぃ!? ジョーダンだろ!?」
それから思い出したようにベリルは、「あいたたた。ボク、急に持病の癪が……」と言い出した。
ヒスイは問答無用とばかりに、ベリルの首根っこを掴んだ。
「うるせぇよ! さっさと行くぞ、ほら!」
「うわ〜ん! 誰か止めてぇ! 今、ヒスイはきっと正気じゃないんだよぉ!」
喚くベリルを、ヒスイはそのまま引きずっていった。
それを見届けて、タンジェリーナは思わず呟く。
「……すごい嫌がりようでしたね」
「ベリルがそんなに嫌がるような場所を通るの?」
シングがコハクに尋ねると、コハクは暗い表情で答えた。
「うん……行ってみれば分かるよ」
「私は行ったことがないのですが……なかなかの難所だと聞いています」
タンジェリーナは、それだけ補足しておいた。