Cuore Luna
□第九章 巨匠たちの想い
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村の人々や雲羊たちをほぼ全員調べると、例外なくヘリオと同様の症状を起こしていた。これは間違いなく、デスピル病だった。
ちなみにだが、一行はソーマの力に守られているため、デスピル病にかかる心配はない。
イネスの咄嗟の指示で、シングはベリルを連れて来ることになった。村全体を襲うデスピル病となれば、村に詳しい彼女の力が必要なのだ。
コハクとリチアはヘリオの介抱、残りはゼロムに寄生された人を探し――そしてタンジェリーナは、村の周囲に実体化ゼロムがいないかを、カルセドニー隊と共に調べることとなった。
「ダメだ、こっちにはいないよ」
ペリドットはそう言って、タンジェリーナの元にやって来た。
タンジェリーナとペリドット、カルセドニーとバイロクスに分かれてゼロム探しをしていたのだが――魔物に遭遇するだけで、ゼロムは全く見つからなかった。
「私もです……一旦、村に戻ってみますか?」
「ああ、そうだね」
それから不意に、ペリドットはタンジェリーナの顔を堂々と覗き込んできた。
「え、と……私が何か?」
「今さらだけどさ。あんた、もしかして……あのリーナなの?」
「あの、とは?」
タンジェリーナは、ペリドットが何を言いたいのか分からず、戸惑って首を傾げる。
「護衛屋のソーマ使いリーナのことだよ。結晶騎士の間じゃ、すっごく有名でね。教主サマが何度勧誘しても迷わず断る謎の美女で、実はユーライオの闘技場の有名人でもあるって聞いてる」
それを聞いて、否が応でもタンジェリーナは納得してしまう。思い当たらざるを得ないのだ。
久しぶりだったので半ば忘れていたが、ペリドットの問いも意外とよくされる内容だった。仕事の場ではリーナと呼ばれるし、自分でもそう名乗るので、タンジェリーナではピンと来ない人が多いのである。
「……多分それは、私……ですね。……美女は違うと思いますが」
「マジ? やっぱり!?」
目を見開いて喰い付いてくるペリドット。
「地下水道でのあの力、やっぱりそうだったんだ! てっきり護衛屋として各地を歩いてると思ってたから、シングたちといるとは思わなかったよ〜!」
「どうしたのだ、ペリドット。声が大きいぞ」
そこへやって来たバイロクスが、ペリドットに声をかける。バイロクスの隣には、カルセドニーの姿もある。
「だってリーナは、あの護衛屋リーナなんだよ!? 知ってるでしょ!?」
「そうだったのか?」
驚いたような表情で、カルセドニーがタンジェリーナに尋ねる。タンジェリーナは戸惑いつつも小さく頷いた。
「え、と……はい。バレイア教教主ラブラド・アーカム様からのご勧誘をお断りし続けていた護衛屋ソーマ使いは、おそらく私のことです」
「大人しく落ち着いた女性だと思っていたが……」
「やっぱし、人は見かけによらないってことだよ。あの機械人……クロアセラフだっけ? あれとあんだけ渡り合えるんだから、本物だよ」
ペリドットは感心したように言う。
「皆さん、大げさですよ。私以上のソーマ使いは、結晶騎士の中にもたくさんいらっしゃいます」
困ったように笑いながらタンジェリーナは言って、一人逃れるように村へ歩いて行った。勧誘を断る理由と訊かれたら面倒だとは思っていたのだ。
「……謙虚な方だ」
バイロクスの言葉に、カルセドニーは「ああ」と頷くだけだった。
「私とペリドットはゼロムへの警戒のため、村の入り口に残ります」
「ああ。任せたぞ」
バイロクスの申し出にカルセドニーは頷くと、タンジェリーナの後を追った。