Cuore Luna

□第一章 信頼のスピリア
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サンゴは「あいつらに挨拶してくるわ」と言って、船を降りていった。
残されたタンジェリーナは、船縁で一人静かに考える。

(……リグナトル駐屯地に入る、か)

数年前に、多くの犠牲を払って世界統一を果たしたマクス帝国。
その帝国が、海に面した渓谷沿いに造り上げた巨大な軍事基地。それがリグナトルだ。
そのリグナトルはタンジェリーナにとって、仕事で何度か来ている場所の一つである。
同時に、できる限り近寄りたくない場所の一つでもある。
決して、そこでトラウマになるような嫌な思いをしたというわけではないのだが……。

「リーナ? リーナじゃない」

覚えのある声に、タンジェリーナは顔を上げた。目の前にはいつの間にか、イネスが微笑みを浮かべて立っていた。

「イネスさん!」
「ふふ、久しぶり。今回はサンゴ船長と一緒なのね?」
「はい、私は今、とりあえず暇なので……」
「相変わらず、私にもさん付けなのね?」
「私はどうしてもこうなってしまうんです。これは直しようがないです」

イネスの指摘に、タンジェリーナは苦笑した。タンジェリーナは、他者をさん付けで呼んでしまう丁寧主義な人間なのである。

「それにしても、どうしてイネスさんがリグナトルに……?」

タンジェリーナは以前、帝国軍特務部隊への荷の護衛の仕事があり、そこに所属するイネスと出会ったことがある。
だから、イネスが軍に所属していることを――つまり、軍に指名手配されているソーマ使いの一行にはスパイとして参加していたことも――知っていた。
それゆえ、タンジェリーナは驚いていたのだ。
タンジェリーナの問いに、イネスは真剣な表情で答える。

「……信頼に報いるためにも、助けに行かないといけない子がいるの。そして――」

そのとき、

「イネス! すぐに出発しよう……あれ?」

と、第三者の声が割って入ってきた。
ひょこっと顔を出したその声の主は、盾型のソーマを持った少年――シング・メテオライトだ。その後ろには、シングやイネスの仲間であるソーマ使いたちが立っている。

「イネス、その人は? ソーマ使いみたいだけど」

コアが付いた帽子を被った少女――ベリル・ベニトが、タンジェリーナを見て問いかける。

「そうね。この子の実力は相当だし……せっかくだから、道中で皆に紹介するわ。とりあえず、今は時間がないから出港しましょう」

イネスの言葉に、一行は頷いた。
肩当て型のソーマを持った男――ガラド・グリナスは、無言でタンジェリーナを見つめていた。
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