Cuore Luna
□第二章 悪夢の始まり
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崩壊したリグナトルの周囲の海には、岩や資材などが大量に浮かんでいる。
幸い生きて発見された特務兵たちに、空を飛びながらタンジェリーナは回復術をかけた。
そして、サンゴの船が追い付いてくると、特務兵たちを船に乗せていった。
そして今、船の中では怪我人の手当てが進められている。
飛び回って回復術を多用し、特務兵たちを次々に乗せる大仕事をしたタンジェリーナは、サンゴに休むよう言われた。
そのため、タンジェリーナは操舵室に入って休んでいたのだが――その表情は、物憂げである。
「…………」
甲板は船員や特務兵で混雑しているため、この操舵室に寝かせて介抱していた人物がいた。
その人物とは――イネスのことである。
辺りを飛び回って懸命に捜したものの、ソーマ使いの一団の中で見つかったのは、彼女だけだったのだ。
イネスは、一人の少女を抱えた状態で海に浮かんでいたところを発見された。
その少女はイネスの隣で、まるで死んでいるかのように眠っている。
「二人の様子はどうだい?」
船を操舵していたサンゴが、タンジェリーナに問いかけた。
タンジェリーナはサンゴに振り返って答える。
「回復術はかけたので、大丈夫だと思います。ですが……」
少女の方に関して説明し難いことがあり、話すべきか迷うタンジェリーナ。
しかし、ややあってから、とりあえずサンゴに話すことにした。
「この子、何と言うか……生きているのか、分からなかったんです。だから、一度スピルリンクしてみました。そうしたら、この子のスピルメイズはあまりにも狭かったんです」
「一応、生きてはいるってことなのかい?」
「……そうよ」
そう答えたのは、タンジェリーナではない。
驚いて振り返ると、意識を取り戻したイネスが体を起こしたところだった。
「イネスさん! まだ安静にしていないと……!」
「そうだぞ、イネス」
しかし、イネスはかぶりを振って言う。
「私とラピスを助けてくれたのね。……ありがとう」
イネスのその声は、無力に打ちひしがれるような悲しい響きを持ってタンジェリーナの心に届いた。
イネスは、少女――ラピスに目をやる。
「ラピスには、なぜか……スピルーンが無くて……。三年前から、ずっと眠ったままなの」
それを聞いて、タンジェリーナは目を見開いた。
「三年前から!? そんな、どうして……」
「軍の、思念石砲試射で……暴発が起きた事件があったでしょう? それに巻き込まれた後、スピルーンを失って……、っ!」
イネスは言葉の途中で顔をしかめた。
やはり、まだ体が痛むのだ。
ましてや、ここは揺れる船の上なのだから、余計に痛むだろう。
「イネスさん。今は、とにかく寝ていてください。南ペンデロークに着いたら、私がヘンゼラまでお送りしますから……」
そう言いながら、タンジェリーナはイネスをそっと寝かせた。
「……そう、ね。そうさせて、もらうわ……」
無理に笑顔を作って言うイネスに、タンジェリーナは心の奥が痛むのを感じた。