短編

□Let's make believe that we are in love.
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「...はぁ?」


私が不意に浴びせた質問に静雄は意味が分からないと言うようにそれだけを返してきた。


"ねえ静雄、静雄は誰かに愛して欲しい?"


静雄と私はそれなりに付き合いが長い方だと思う。
来良学園がまだ来神高校という名前で、私達がそこに通っていた頃からに偶然知り合い、今でもこうしてよく街で会うのだ。

持っていた紙コップの中の氷をくるくるとかき混ぜる。


『いや、深い意味はないよ?静雄は昔からよく愛されてないって思ってたみたいだから』

「あぁ、そういうことか。
...まぁ、俺みたいなやつが愛されるっていうのも難しい話だよな...」


つまり、まだ愛されたいと思っているということだろう。
腕を組んでぶつぶつと言う静雄が可愛くて、思わず口元が緩む。

金髪でサングラスをかけたバーテン服の男。

池袋でこう呼ばれ、恐れられているのは今目の前にいる静雄しかいない。

そりゃあ、確かに静雄は怒ると手がつけられない。
持ってるコップを握りつぶしたり人を投げたり。
臨也と会った時には標識や自販機すらも引き抜いて投げてしまうから恐怖の対象になってもおかしくない。

静雄は、確かに短気で怪力で、すごく怖い。
でも恐れずに、少しでも静雄に踏み込めば他の誰よりも優しいってことが分かる。


本当は誰よりも優しくて、平和を望んでいて、とてもあたたかい人。


静雄の良さに気付かない人々を可哀想に思うと同時に、それを知っているごく少数に私がいるということに優越感を抱く。

未だぶつぶつと独り言を呟く静雄に今度は声を出して笑う。


『ふっ...あははは!静雄ってばおかしい!』

「...あぁ?」

『怖い顔しないで、眉間に皺寄ってるよ?』


くすくすと笑いながら静雄の眉間をつつく。
もしここが人通りの多い場所だったら辺りの人が騒然としていただろう。

静雄は毒気を抜かれたように一瞬惚けると後頭部をがしがしと掻く。


「...あーくそ......澪には敵わねぇな」

『え、ほんと?私池袋最凶に勝っちゃった?』

「あーはいはい、お前の勝ちだ」

『適当!』


いくら私が相手だといっても扱いが雑すぎはしないだろうか。


『……!』


でも、もしかしてこれはチャンス?

これを口実に――なんて考える私は純粋ではない。
でも、それでもいいから私は静雄の隣にいたいのだ。


『ねえ静雄、私が池袋最凶に勝った記念にお願いを一つ聞いてくれない?』

「お願い?」

『うん、多分静雄にとっても悪いお願いじゃないと思う』

「…なんだ」

『それはね…』



Let's make believe that we are in love.



――"恋人ごっこをしよう。"

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