短編

□幸せって何色かな
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「ねえ澪、幸せって何色だと思う?」


いつもと同じように、造った箱を行儀悪くソファに寝転んで弄びながらサイは私に尋ねた。

何色って...何色だろうか。


『そもそも幸せに色があるの?そんな物質的なもの?』


その箱じゃあるまいし、とサイの手の中から箱を取り上げるとまじまじと見つめる。

凹んだり、傷が付いていない綺麗な真っ赤な箱。
事情を知らない人が見ればただそれだけだろうが、これは元々人だったものだ。

サイが数分前に殺した人。
その人が、今はこうして箱に姿を変えて存在している。

出来れば私も知りたくなかったなぁ、なんてこっそり嘆息して投げ返す。


「さあね。物質的な物かはともかく、俺は幸せに色があると思うよ」

『ふぅん?じゃあサイの幸せは何色?』

「俺の?
......知りたい?」


悪戯っぽく微笑むサイに頷くと、サイは立ち上がると私に歩み寄る。


「俺はね......黒かな」

『黒?』


どうしてだろう。
人を箱に変えては観察するのが趣味なサイのことだから赤かと思っていた。

首を傾げそう思案していると不意にサイの手がこちらに伸びる。


「澪の髪、瞳、服、全部黒でしょ?
俺はね、澪の色が俺の幸せだと思うんだ。
アイの色は俺を支えてくれる。澪の色は俺を幸せにしてくれる」


慈しむように、優しく私の髪を撫でる。
予想だにしなかった行動に、思わず胸が高鳴った。


『ふ、ふぅん...。でも、支えるのはアイさんなんだね?』

「だって、澪は絶対仕事手伝ってくれないし」

『当たり前でしょ、私がこうやって人を箱に変えてるのを見逃してるだけ有難いと思ってよ!』

「はいはい。ありがとね、澪」


未だ撫でる手を止めないサイに、私の頬はどんどん紅潮していく。

ああもう恥ずかしい、なんでサイ相手に。
調子狂うなぁ。


「ねえ澪」

『...ん?』

「澪の幸せの色は何色?」

『...そうだねぇ』


少なくとも黒ではない。
私の、幸せの色。


幸せって何色かな


白、かな?
何色にも染まっていない、純粋な、あなたの色。

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