短編
□いつまでもあなたが好き
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臨也、臨也。
車の後部座席で私の膝に頭を乗せ、寝転がり荒い呼吸だけを繰り返す臨也。
私の左手は臨也の柔らかな黒い髪を撫で、右手は腹部を押さえている。
ぽたり
ぽたり
座席に広がるスカートは、臨也の腹部から滴る血が染み込み少しずつ変色していく。
「臨也、大丈夫。きっと、時間がかかっても治るから」
「…っ、はは…どうだろうね…」
「大丈夫。きっと大丈夫からね。
黄根さん、愛海ちゃん、臨也をよろしくお願いしますね」
「……」
答えることなくハンドルを握る黄根さんは、きっとできる限りの手を尽くしてくれるだろう。
眉を顰めた愛海ちゃんも、臨也を恨んではいるけどきっと守ってくれる。
「臨也、私は臨也が死んじゃうのは嫌だよ。
死んだら絶対に許さないからね。生きないと許さないから」
「はは…っ、お前に許されないとか、関係ないよ…」
「馬鹿。静雄とヴァローナに殺されかけたところを助けてあげたのは私なんだから、一つぐらい言うこと聞きなさい。
…最後まで着いていきたいけど、私はみんなと違ってついていけないんだから」
池袋から私は出られない。
ついていきたくても、私は"池袋そのもの"だから出られない。
人間ではないのだ。
臨也が愛する人間ではない。
臨也は私を愛さない。
けれど、私は臨也を愛してしまった。
でも、それでもいい。
臨也からの愛がほしくて、臨也を愛したわけではないのだから。
臨也に心を奪われた時点で私の負けなのだから。
「…もうすぐ池袋を出ちゃうね」
私ももういなくなっちゃうね。
「ごめんね、臨也。あの時助けられなくて」
私、臨也がいつか池袋に戻ってくるのを待ってるから。
いつもみたいに、臨也が池袋を掻き回して、
静雄と馬鹿みたいに喧嘩をして、
サイモンに助けられて、
セルティや新羅に呆れられて。
そんないつもの日々が戻ってくるのをずっと待ってるから。
ずっとずっと、池袋で待ってるから。
「だから、必ず帰ってきてね。」
白く細い指を自分のそれと絡める。
大丈夫。臨也は生きていける。
「約束。」
ぎゅっと手を握った瞬間、膝にあった臨也の体温が薄まる。そして、私が現れたのは池袋の薄暗い路地裏だった。
人々の喧騒はどこか遠く、ちかちかと点灯する白熱電球だけが目を刺激する。
私は星が輝かない夜空を振り仰ぎ見て、決して綺麗ではない空気を大きく吸った。
待ってるからね、私。
臨也は私を愛さなくてもいい。
でも、私があなたを愛すのは私の自由でしょう?
いつまでもあなたが好き
いつか必ず会いに来てね?