短編
□誰のもの?
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「澪・・・っ!!」
『わっ!どうしたの?マリー』
「澪っ!!澪は私の事好きだよね!?」
『え!?』
突然抱きついてきて(突進ともいう)少し爆弾発言を落としたマリーは真っ直ぐに此方を見つめている。
どうしたんだろう、急に。
でもマリーのことは好きなので『うん』と答えると真っ赤に顔を染めて満面の笑みを浮かべた。
「私もね!私も澪のこと好きだからね!」
『うん、ありがとうマリー』
「ふふん・・・!」
『(・・・うん?)』
何故か突然ドヤ顔のマリー。
その視線の先には此方も満面の笑みのカノがいた。
いつもどおり胡散臭い、でもいつもの倍の笑顔を顔に貼り付けたカノはそのまま此方に歩み寄り、手を握った。
「澪、僕は?勿論僕のこと好きだよね?マリーより」
「カノ・・・!私と澪の邪魔をしないでよ・・・!」
「邪魔なんかしてないよ?ねぇ、澪。澪は僕のことが好きだもんね?」
「そんなわけないでしょ!!」
『・・・・・・』
・・・修羅場!!
脳内に浮かんだ言葉はその一言。
何故修羅場なのかはよく分からないけど、マリーの目がじわじわと赤くなり始めているのは少し不味い。
未だくっついたままのマリーと、私の左手を握るカノ。
至近距離で仲良く喧嘩する二人を見守りつつ暑いなぁ、なんて事を考えていると、後ろから何か重いものがのしっと覆いかぶさってきた。
うん、間違いない。
私の上に覆いかぶされるのは一人しかいない。
『セトまでどうしたの?』
「はははっ!澪の奪い合いをしてるみたいっすから俺も混ざろうと思って!」
『奪い合い?』
「気づかない鈍感な澪も可愛いっす」
『・・・えっと・・・ありがとう?』
にかっと爽やかな笑みを浮かべてがしがしと頭を撫でてくるセトにされるがままになっているとカノが噛み付いた。
「ちょっとセト、澪の頭を軽々しく撫でないでくれる?澪は僕のものなんだからさ」
「何言ってんすか?澪はまだ誰のものでもないっすよ?」
「へぇ・・・まだ、ねぇ・・・」
「「ふふふふふふ・・・」」
『(もうやだこの二人怖い)』
とてつもなく逃げ出したい衝動に駆られるがこの体制は絶対無理。
そしていつの間にか私の服を引っ張るコノハ。
「澪は僕のこと好きだよね・・・?」
なんて上目遣いは反則です。うっかりときめく。
とりあえず脱出しようと唯一自由な右手をぱたぱたと動かすとその手も何かに掴まれた。
「澪さんは渡しませんよ!!」
『モモちゃん?・・・ってちょっと痛い痛い痛い!!モモちゃん痛い腕抜けちゃう!!』
助け出そうとしているのか腕を引っ張ってくるが、これは確実に腕が抜けちゃう。
「おい、モモやめてやれよ。澪が困ってるだろ」
「あ!!ご、ごめんなさい澪さん・・・!」
「おお・・・!流石ご主人、好きな人のためにならその身代わりすら役に立たなそうなニートの体を投げ打つんですね!」
「エネお前黙ってろ!!」
シンタローナイス!
私の腕が抜けるところでした。
『えっと・・・シンタロー、とりあえず助けてくれないかな?圧死しそう』
「お、おう・・・」
顔を照れくさそうに赤く染め、それをエネちゃんに指摘されると「本当黙ってろよ!」といいながらカノたちに注意を促した。
「おいお前ら、澪が潰れそうだろ。
好きなら離してやれよ」
「あ・・・澪・・・!ご、ごめんね・・・!」
『ううん大丈、夫・・・?』
おろおろと心配そうにこちらを見つめるマリーの手には広辞苑。
何故。
その華奢な腕で広辞苑。
ていうかアジトにそんなものあったんだね。
「で、澪。僕達の中で一番すきなのは誰なの?」
『え!?』
じぃ、と此方を見つめるいくつもの目。
何か皆怖いよ!?誰か助けて!!
なんて冷や汗を流していると遠くから扉の開く音が聞こえた。
「ただいまー」
『そ、そうだ!!キドが一番好きかな!?』
しん、と静まり返るアジト。
入ってきたキドは一瞬フリーズするもすぐに動き出すと一つ咳払い。
「こほん。えっとな・・・うん、澪。俺も好きだぞ?(友達として)」
『私も・・・!(友達として)』
はにかむように笑うと、今まで騒いでいた人達がソファにばたばたと倒れる。
それは目の前に居る団長もなようで、真っ赤な顔を隠すようにフードを深く被りなおした。
・・・私何もしてないよね?
誰のもの?
後日、改めて「僕は澪のことが好きだよ。友達としてじゃな、」まで言いかけたカノがマリーの能力で石になったのは最近の話です。