短編

□許してなんて言わないよ
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僕のせいだ。

僕のせいなんだ。


「澪っ!」


僕が任務に連れてこなければ。


「大丈夫!?今から病院に連れていくから!」


僕がこの任務を頼まなければ。


澪は今でも自由だったのに。




病院で受け付けの看護婦さんに見舞いの旨を伝え部屋に向かう。

無機質な扉の前で一呼吸おいて手をかける。

感情とは裏腹に扉は軽く開いて。


ぼんやりと窓の外を眺める澪が視界に飛び込んできた。

病院特有の消毒液のにおいと、白い着物。


澪は少し痩せたみたいだ。

・・・まぁ、僕のせいなんだけど。


近寄ってベッドに腰掛けると澪の指がぴくりと動いた。

こちらを向くと前と変わらない優しげな笑顔。


しばらく会話を交わす。

和やかな和気あいあいとした会話。

そんなとき、ふと。

突然思い出したかのように。

何でもないことのように、澪はさらりと言った。


『私の足はもう動かないんだって』

「・・・っ」


嫌でも脳は意味を理解する。


ウゴカナイ。


僕のせいで、澪の足は、二度と。


僕は無意識に澪の手を握りしめていた。


「ごめん・・・僕のせいだ・・・」


今顔を欺いていなければ酷い顔を見せたと思う。

きっと誰にも見せたことがないような顔をしているんだと思う。


唇を噛んで俯くと、澪のシャンプーの香りが鼻を掠めた。

僕は優しく抱きしめられていて。


澪は小さく、囁くように一言呟いた。


『――』


すぐに離れた澪は妖しげに、妖艶に微笑していて。


まるで澪の香りに酔ったかのように僕は手の甲にキスを落とした。



許してなんて言わないよ


僕は永遠に君のもの。

 

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