短編

□愛されたまま死んだ彼女に、私は一生追いつけない
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アヤノは愛されていた。

沢山の人に愛されて、愛されたまま、死んだ。

勿論私だってアヤノのことを愛していた。
アヤノの友達として、きっと誰よりも仲が良く、信頼されていた人間であったと思う。

だけれど、それだけだったのだろう。
彼女は私に何も言うこと無く、相談することなく自殺した。

初めて参列した葬式。
誰もがアヤノの死を悼み、悔やみ、泣いていた。

カノ、キド、セト、そしてケンジロウおじさん。

すすり泣く声で埋め尽くされる式場で、私はただ一人浮いていた。

涙が出ない。
悲しい、けれど涙は一粒も零れなかった。

粛々と式に参加し、形式通りに線香をあげる。
見上げたアヤノの遺影は笑っていて、随分と不釣り合いだった。


葬儀が終わり、式場を離れようとすると後ろから複数の駆ける足音がした。


「澪おねえちゃん!」

「...キド」


カノ、それにセトまで。

振り返ると見慣れた顔触れがいて。
荒い息を整えると、カノが真っ先に私を睨んだ。


「......澪ねえちゃんは、悲しくないの?」


なんと滑稽な疑問だろうか。思わず口が緩みそうになる。

私はアヤノが大好きだった。
いつもいつも一緒にいて、キドたちともヒーローごっこをした。


「そんな訳ないでしょ?アヤノが死んだことはすごく悲しいよ」

「なら、なんで泣いてないの?」


また、滑稽な疑問。


「何でだろうね、私も分からない。
悲しいけど、全然涙が出ないの、」


"不思議だね"と言い切った時、頬に鈍い痛みが走って視界が揺れた。


「修哉、何してるの...!?」


突然の出来事にセトは絶句し、キドは慌ててカノを押さえ込んだ。

なんて事はない、カノが私に殴りかかっただけだ。

じんじんと痛む頬をおさえるとカノを見据える。
カノはじっと私を睨みつけており、キドが手を離せばもう一度殴ってきそうだった。


「お前は、ねえちゃんが嫌いだったんだ」

「しゅ、修哉、澪おねえちゃんに何を...」

「そうなんだろ!?涙も流さないで、悲しむ素振りすら見せないで!だからそうやって居られるんだろ!?」

「修哉、言い過ぎだよ...!」

「うるさい!僕は間違ってない!」


激昂し、肩で荒く息を繰り返すカノは私への憎しみと、アヤノへの哀しみで揺れていた。

何も言い返さず、ただただカノの目を見つめていると小さく「もういい」とだけ呟いて、カノはキドを振り解くと制止の声も聞かず式場に駆けて行った。

残されていた二人は式場と私を交互に見る。

しかしやがて気まずそうに目を伏せると同じように式場へ走って行った。

カノに殴られた頬は少しずつ痛みを増していた。

頬の痛みは、暫く消えそうにない。


愛されたまま死んだ彼女に、私は一生追いつけない


私は彼女に成り代わることはできない。

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